Programmatic I/O 2024:広告代理店の「これから」

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というわけで、2024年5月にラスベガスで開催された「アドテクの祭典」ことProgrammatic I/Oに参加してまいりました。相変わらずの最高気温40度越えの猛暑の中、カジノエリアを抜け、プールサイドではしゃぐ人を横目にアドテクノロジーを一心不乱に学ぶ「精神と時の部屋」に引きこもるという苦行でしたが、今年は今まで以上に考えを深めることができたように思います。

皆さんもご存じの通り、GoogleによるPrivacy Sandbox(Chromeの3rd party cookie利用停止に伴う代替技術)のリリースが2024年末から延期になり、2025年の前半になりました。これ自体は業界のエコシステムを担保していく中では一定仕方ないのないことだとも思います。ただ、本来今年の末に設定されていたDeadlineが延期になったことによる余波はエコシステムの維持と同時に、ある種の「あきらめ」も蔓延していたように思います。そもそも業界としてPrivacy Sandboxが遅れるであろうことは想定の範囲内であったことに加え、そもそも「Privacy Sandboxの必要性・重要性」に陰りが出ていることもあったでしょう。

結果としてContextual広告の活用や(Publisher側も含めた)1st party dataの活用はどんどん加速し「脱Cookie=Privacy Sandbox」という見解はほぼない、という状況になったとみてよいでしょう。いわゆる「One size fits all」な脱Cookie・Cookielessのソリューションは存在せず、クライアントごとにそれぞれに適切な対策を講ずる必要がある、という結論になったと考えています。

結果として様々なソリューションをどう活用するべきか、という議論がヒートアップした結果、良くも悪くも様々な見解が混在する「喧々諤々な議論」という状況になったように思います。いうなればある種健全な意味での「カオス」状況になった、というところでしょうか。

そしてそのカオスをさらにカオスにした要因が生成系AIだった、といっていいでしょう。これは特にContextual広告におけるイノベーション、もっと言えば「クオンタムリープ」と呼ぶに値する現象といってもよいかもしれません。

クオンタムリープ」とは「量子的飛躍」という意味で、そこから転じて短期間に異常ともいえる飛躍を見せる現象のことを指します。昨年から業界を席巻している生成系AIは、当初人間が作っていた制作物を大量かつ高品質に作ることでデジタルマーケティング業界で活用が進んでいました。昨年から今年にかけての短期間においても各生成系AIは進化をづつけ、皆さんもご存じの通りChatGPTのGPT4は従来の3.5よりも飛躍的に進化した大規模言語モデルを採用しています。

その結果として、今まで「ページの内容(コンテクスト)」に連動していた広告であるContextual広告は「ページの内容」から「文意」ある意味で「行間」までも把握した内容解析を行えるレベルに達しています。そしてそれはまずContextual広告の精度で効果改善につながり、かつ配信のアルゴリズムにおいても活用がされています。

つまり生成系AIが登場し、クリエイティブの作成、配信制御、そしてアルゴリズムの改善に活用されていることで「3rd party cookie」の代替ソリューションの需要を一定削ってしまった、ということが言えるわけです。

無論今後の進化の方向性と速度によっては一時のブームで終わる可能性も否定しませんが、最新技術が次々に登場する「アドテク」業界としてはこういった「クオンタムリープ」は過去にも存在していたことは事実です。さらに言えば何よりそういった飛躍的な進歩が業界の新陳代謝を促していたわけですから、今回の流れもそういった「市場のクオンタムリープ(飛躍的な進化)」という話と捉えておく方が正確かな、と思っていたりします。

以上を踏まえて、ポジショントークでもなんでもなく、各スピーカーがProgrammatic I/Oで語っていた言葉があります。それが「Education」です。

今後のネット広告業界は、はっきり言えば「カオス」の状況が数年続くことはおそらく間違いないでしょう。というよりもこの業界は常にカオス状況ではあるわけなので、当たり前の話といえば当たり前ですが。ただ、GDNの今後やいわゆるOpen Internetに配信をする各媒体、Walled Gardenの方向性、Appleの次の一手など、影響が小さくない様々な事件・展開がこれから起こることもおそらく疑う余地がありません。そういった中で広告代理店・デジタルマーケターの側に求められるのは「情報を集約し、その時々で最も合理性の高い提案」をする力になります。

これは別に3rd party cookieやPrivacy Sandboxなどがなくとも、上記の力は必要ではあるわけですが、ここまで「Moving Parts」が多い近未来を踏まえれば、やはりしっかりとした知識とそれに伴う情報の選別と判断が、今後の市場変化・進化についていくために必要であることは言うまでもありません。

そういう意味で「しっかりとした知識」をはぐくむ「Education」は優先度が高くなるわけですね。

デジタルマーケティングの人材育成を生業にしている弊社のいつもの展開ならここで「研修のご提供」の営業トークが入るところですが、今回はやめにしておきます。ただ上記にあるProgrammatic I/Oの視察レポートは研修として受けたまわっておりますので、本ページ最下部のフォームよりお問い合わせください!

ただ、今日の結論としては「戦略設計」と「戦術執行」の両面をいかに密接に回すか、というところを挙げさせてください。というのも、今回のCookie規制やPrivacy Sandboxの延期は「戦術」レイヤーの事件として捉えられがちではありますが、実はこれは「戦略」にも直接的な影響があるものでもあります。

いわゆる「戦略」と「戦術」はしばしば分離して議論がされますが、運用型広告においては「戦略設計」と「戦術執行」は表裏一体ですし、その二つが密接に連携をすることで大きな効果を生むことができるわけです。そして今回、上記にある「クオンタムリープ」はもちろん、戦術的な議論として捉えられがちな「計測」や「最適化」も含めて業界は大きく変わる可能性があります。そしてその「大きく変わる」度合が本当に大きい場合、もはや「戦略」の見直しが必要にもなる可能性があるわけです。

技術的な細部の話が全体の戦略を修正を必要とするレベルのインパクトを持つ、いうなれば「神は細部に宿る」という理屈が今ほど大切なタイミングはおそらくないでしょうし、だからこそ面白い「デジタルマーケティング業界」なんだと痛感をしたラスベガスの出張でした。

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