Metaの方針転換から考えるデジタルマーケティングの今後

Metaの方針転換から考えるデジタルマーケティングの今後

目次

ニュースソース(英文)

ニュースソース(日本語版)

2024年秋の米国大統領選挙の結果、共和党のトランプ大統領の再選が決まりました。海の向こうの大統領選挙ではありますが、この選挙の結果を注視していた日本の業界人も少なくはなかったと思います。というのも、今回の米国大統領選挙の結果、米国テック企業は一定の方針転換を迫られる可能性があったからです。

そして年が明けて2025年1月、その予測はおおむね予想通りの展開になる気配になりました。そん短所となるのが今回取り上げる「Meta社のコンテンツも出レーション方針」の転換です。ひとまず今回の方針転換について、上記リンクにあるwired.jpを読んでみましょう。

メタ・プラットフォームズは1月7日(米国時間)、FacebookInstagramThreadsにおいて、第三者によるファクトチェックプログラムを廃止すると発表した。多数の有給モデレーターを、Xで物議を醸している「コミュニティノート」のようなボランティアベースのシステムに置き換える。このシステムでは、ユーザーが不正確または誤解を招く可能性のあるコンテンツを公開でフラグ付けできる。

つまり今までMeta社は同社が保有するソーシャルメディア上での投稿について、第三者によるファクトチェックを実施していたのですが、それを現在のX(旧Twitter)と同様ボランティアベースでの議論に変更する、ということになります。

分かりやすく言うのであれば、ソーシャルメディアを「自由な言論空間」と捉えるのか、それとも「節度がある社交場」として捉えるのか、という観点で考えるとわかりやすいでしょう。

「自由な言論空間」では玉石混交で審議も不明確な情報も含めた「自由な議論」が巻き起こります。それは時としてイノベーションの萌芽になりうる可能性を秘めつつも、多くの人々を扇動し、場合によっては傷つけるリスクを孕んでいることは間違いありません。その反面「節度を持った社交場」として考えれば一定のマナー・暗黙の了解があり、そのマナーから逸脱した場合にはモデレーションの介入が発生します。それはイノベーションの萌芽になるようなとがった議論は起こりにくいかもしれませんが、デマや扇動、差別的な表現による社会の分断は起こりにくくなるわけです。

上記を踏まえて、今までMeta社がどのようなポリシーでコンテンツも出レーションを行っていたのかを見てみましょう。同じくWired.jpからの引用となります。

メタの決定は、ロイターやUSA Todayなど、同社のファクトチェックパートナーである米国のメディア組織に直接的な悪影響を及ぼす可能性がある。メタのファクトチェックパートナーからは、現時点で『WIRED』からのコメント要請に対する回答はない

こちらの文章を読んでいただければわかる通り、Metaは今までロイターやUSA Todayなどの、いわゆる「権威あるメディア」によりファクトチェックを行っていました。つまり完全なデマやフェイクニュースに対する一定の対応を取っていたわけです。さらに引用をすると

「ニュースルームはファクトチェックを提供することで、Facebookから助成金を受けています。その資金が、ほかのジャーナリズム活動を可能にしているのです。ザッカーバーグの発表は、トランプへの完全な屈服であり、マスクの底辺へと向かう競争に追いつこうとする試みです。ファクトチェックはFacebook上の偽情報に対する万能薬ではありませんでしたが、モデレーションの重要な一部分でした」

いささかこの表現は過激ではありますが、この引用にもある通り「偽情報に対する万能薬」とまではいかないものの、一定の規制として機能していたことが分かります。

表現を変えれば、今回の本心変更前までのMetaはある意味で「レガシーメディア」として機能しようとしていた(完全にレガシーメディアとはいえませんがね)という状況だったように思います。特に紛争や政治関連などで、フェイクニュースが蔓延しがちなソーシャルメディアにおいては賢明な判断だったとも言えますし、その代償として既存メディアによる変更的な報道に流されやすかった、ともいえるでしょう。

上記を踏まえて、この方針転換がデジタルマーケティングやデジタル広告に対してどのような影響があるかを考えてみたいと思います。

a. 広告在庫の拡大と偏重

まず考えられるのは、この方針転換によりMeta上で流布する投稿が拡大する可能性が挙げられるでしょう。もし今回の方針転換により、人々がよりアクティブにMetaのプラットフォーム(facebook/Instagram)を活用するようになると、それはインプレッションやリーチの拡大をもたらす可能性があります。

しかしながら、もしそのような拡大が起ったとすると、増加したインプレッションやリーチには一定のバイアスが存在する可能性が高まります。フェイクニュースも含めた玉石混交な情報を含めてソーシャルメディアを使うユーザー層と、一定のモデレーションがなされたレガシーに近いソーシャルメディアではユーザーの属性が大きく異なります。それは年代や性別、世帯年収など様々な変数に影響を与える可能性があり、そういう意味では広告を見るユーザーに一定の「偏重」が起こる可能性も否定できません。

b. クライアント企業の方針転換

Meta広告の最適化について、その精度の高さは特に広告代理店で働いている方であれば疑う余地はないでしょう。それは「ログイン」を必須とし、「アプリ」ユーザーが多いというソーシャルメディアの特性がAppleのCookie規制の影響を比較的受けにくかったことも無関係ではありません。

そういった意味でいえば、確かに精度は高いものの、玉石混交となったメディアに対して特にブランド広告主の広告出稿が減少するのは古今東西常に発生していた事象でもあります。デジタル広告において「数」は非常に大きな出稿のモチベーションですが、それだけで広告出稿を決断するわけではありません。

そういう意味でも今回の方針転換で、どの程度「ボランティアベース」のモデレーションが機能するかをしっかりと注視していく必要があることは言うまでもありません。

c. 新しいメディアの模索とトライ

今回の方針転換は、語弊を恐れずに言えばMetaとXがほぼ同様のコンテンツモデレーションポリシーを採用する、ということになります。MetaはXほど匿名性が高くないこともあり、そこまであれるということはないでしょうが、それでもこの方針転換についてやや懸念を持っている広告担当者もいらっしゃるでしょう。

もちろん現状においてMetaとXを除けば、そこまで大きなソーシャルメディアが存在するわけではありませんし、何かが代替になるわけでもありません。しかしながら1st party data/CDPの活用やGoogleやY!J/LINEで実践していないメニューなど、トライする価値のある手法は多く存在しています。

むろん広告はあくまで「目的を達成するための手段」でしかないわけですので、何でもかんでも試せばいいわけではありませんが、昨年を通してGoogle広告のメニューは大きく進化しましたし、Y!J/LINEもまだまだ健在です。あらゆる観点から見た時に自社に適切な媒体の選定をできるよう、情報収集は続けておきたいところですね。

このように、実はアメリカ大統領選挙というあまり自分には関係ないようなことでも、かなり直接的に影響があるのがデジタルマーケティング・デジタル広告の特徴的なところであることがお分かりいただけたかと思います。

実は昨年のProgrammatic I/Oでもこの議題はかなり熱い議論がされており、大統領選挙前からその影響を分析しているデジタルマーケティング担当者が多くいました。あの時はまだ民主党の候補がバイデン大統領だったこともあり、トランプ優勢の中で今後のデジタル広告にどのような影響があるのかについて、多くの人々の関心を集めていたわけです。

私としてはMetaの今回の方針転換により、多少の影響はあれどもそこまで大きな市場変化は少なくとも日本では起こらないでしょうし、XとMetaのすみわけは今後も続くと考えています。ただ、その予想は少なくともこの先数年程度の話で、気づいたら全く違う様相になっていることも決して否定はできないわけです。

今回の記事もある通り、弊社は米国と直接的なネットワークを保持し、社会動向や技術革新のトレンドをいち早く収集し、広告代理店様向けの研修としてご提供しております。関心のある方は是非以下のフォームよりご相談くださいませ。