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「自治体デジマケ」を追求した栃木県デジタル戦略課とsembearの取り組み:後編
弊社は2022年から栃木県デジタルマーケティングのアドバイザーとして約3年間、栃木県の各デジタルマーケティング事業について様々な側面から支援をしています。今回はこの取り組みを一緒に進めさせていただいている栃木県デジタル戦略課の皆さんに、今までの三年間を振り返りつつ「自治体のデジタルマーケティングとは?」という本質について前編・後編の二回に分けて掘り下げていきたいと思います!
今回は後編としてデジタル戦略課として推進している、栃木県へのファンづくりを目的とした事業である「とちぎきぶん」と「自治体のデジタルマーケティング」で最も大切なことを伺います!
デジタル戦略課が栃木県の各事業課をどのように支援しているかを掘り下げている前編はこちらから!

写真左から
- 栃木県デジタル戦略課:高橋さん
- 栃木県デジタル戦略課:青木さん
- 栃木県デジタル戦略課:三浦さん
- sembear合同会社:治田
1. 強い足腰のPDCA:事業費を大幅に上回る成果を実現した「とちぎきぶん」
―――さて、ここからは「とちぎきぶん」の取り組みについてお伺いしたいと思います。まずは事業の概要からご説明いただいてもいいでしょうか?
青木:栃木の魅力的な日常を「#とちぎきぶん」をつけて投稿をしてもらい、栃木県の魅力を県内外にInstagramで発信していく、という事業ですね。栃木県公式Instagramアカウント「とちぎきぶん」において、「#とちぎきぶん」がついた投稿の中から素敵な写真をリポスト紹介しています。その他、アカウントの認知度向上や「#とちぎきぶん」をつけた投稿を促すため、とちぎの素敵なプレゼントが当たるハッシュタグ投稿キャンペーンを実施しています。
―――青木さんがこの事業を担当されたのって確か産休に入る直前でしたよね?
青木:そうですね。産休に入る直前に事業がスタートしています。

―――そこで産休から戻った時「え?こんなことになってるの?」って思いませんでした?いい意味で。
青木:フォロワー数も増えているし、アカウントの成長を感じました。特に驚いたのは、「#とちぎきぶん」の投稿数ですね。始めたときは「0」だったのに、約6万件に増えていました。
―――もっと言うと特にプレゼントキャンペーンなんかなくても自然に「#とちぎきぶん」の投稿がされるようになってますよね
青木:そうですね。それだけ「#とちぎきぶん」という言葉が定着してきたように思います。
―――つまりこれってそれだけたくさんの人が栃木の魅力を発信してくれているということですよね、広告効果でいうとどれくらいの効果なんでしたっけ?
青木:先日御社から提供されたソーシャルリスニングツールのデータによると広告換算3億7千万円程度だったように記憶しています
―――事業費は・・・
青木:数百万円です(笑)
―――まさしくユーザーの皆さんと共鳴するソーシャルメディアの活用のお手本みたいな感じになってますよね
青木:本当にそういう展開になってます(笑)
―――ここから何で今日この「とちぎきぶん」のインタビューを最後に持ってきたかっていうネタ晴らしなんですけれど、青木さん、産休があったとはいえ、このとちぎきぶんのInstagramが「バズった」っていう認識あります?
青木:バズった・・・(笑)いや、どうでしょう・・・・バズってはいないような(笑)
―――そうなんですよ、実はとちぎきぶんって明確に「バズった」ことってないんですよね。だけど年間事業費数百万円で3億円以上の広告効果を生み出してるわけです。
青木:確かにそうですね
―――これが行政のソーシャルメディアでとても大きな課題だと思うんですが「バズる」ことってあくまで手段の一つであって目的じゃないんですよね。でも行政だと「バズった企画」が成功事例としてもてはやされることが多いんですよ。実際にとちぎきぶんってバズったわけでもないのにこれだけの効果が出ているわけです。
青木:そうですね。やったことといえば地道な投稿とそれをデータで振り返っての改善ですが、バズってるわけではないですね
―――今まさに青木さんが言ったことがポイントだと思っていて、やっぱりデジタルマーケティングって一発バズることよりも継続的なデータを基にしたPDCAの方が何倍も大事なんですよね。
青木:それは本当にそうですね。
三浦:実際に今「#とちぎきぶん」の投稿ってインスタグラムだけじゃなくてTikTokとかXなんかでもたくさんあるんですよね。それは本当にこの取り組みが県民の皆さんに広く定着しているからこそだと思います。
―――これは行政のソーシャルメディア、特にInstagram活用においてよくある話なんですが、県であれ基礎自治体であれ、その土地の良いところを広めようと思ったら行政のアカウントだけでは大体不十分なんですよね。その土地に実際に住んでいる人たちからの生きた情報が伝わっていくことが本来必要なんですよね。
青木:まさにそうだと思います。結局県職員だけで投稿をしても何かしら観光地として有名なところの発信ぐらいにとどまってしまうんですよね。そこで県民の皆さんの投稿を取り上げることで、本当の栃木の日常の良いところを紹介できるのは本当に良いことだなと思っています。
高橋:いわゆる「参加型」の取り組みになりましたよね。

―――そういう「参加型」の取り組みを進められたのもPDCAありきだと思うんですよね。そこが栃木県のデジマケの足腰の強さというか、日々のデータを活用したPDCAから投稿を改善して着実に効果を上げていく、という「デジタルマーケの本質」的な取り組みを実践されていると思います。
青木:データという意味では、本当に単なる勘とか雰囲気とかでの投稿じゃなくて、リポストした中でいいねが多い投稿の共通項を探し、類似した写真を探したり、ハッシュタグを分析してより拡散しやすいハッシュタグを検討したり、試行錯誤しています。あとは広告の配信とかを行っていった結果かなというふうに思っています。
―――あと、ソーシャルメディアの事業でありながらもサイトの分析もしてますもんね。
青木:そうですね。広告からの来訪データをGAで分析してます。LPにインスタアカウントへの遷移ボタンを設置していましたが、GAで確認したところクリック数が少ないことが分かったので、ボタンの位置をサイト上部に移動したり、文言やデザインを変えたことでクリック数が増えました。
―――Instagramの事業だからInstagramしか見ない、っていうのは自治体ではよくあるんですが、やはりちゃんと取り組むならソーシャルメディアもウェブサイトもしっかり見た、いわゆる「ちゃんとしたデジマケ」で取り組むのが大事、ということですね。
2. まとめ:自治体デジマケで一番大切なこと
―――というわけでもう終盤なんですが、最後のまとめの前に弊社との3年間のコラボレーションはいかがでしたか?
三浦:本当に正しいことを教えていただけるなっていうのは、いつも思ってます。やっぱり調べてもそれが合ってるかどうかが正直わからないところもあるので、気軽に正しいことを聞けるのは本当に助かってますね。
高橋:三浦さんも言ったように、我々の知識も完璧ではないので、ネット情報を鵜呑みしちゃうと間違った進め方になりかねないんですよね。そういうリスクをその都度正してもらって、正しい選択肢を示してもらうっていうのは、とてもありがたいと思います。
青木:私もお二人が言ったこととほぼ同じなんですが(笑)、いつも三浦さんが治田さんのことをこんな身近に辞書がいるんだから使わなきゃもったいないっていうおっしゃっているので(笑)。まさにそうだなと思ってます。
治田:ほんと三浦さんは世界で一番弊社を外部脳として活用されてますよね(笑)
三浦:そうですね。「最大限使い倒す」って意識が半端ないですよね(笑)

―――ありがとうございます。それではこれまでの会話を振り返って皆さんに最後の質問です。「行政・自治体がデジタルマーケティングに取り組むうえで一番大事なこと」とはなんでしょうか?どんなものでも構いませんので一言ずついただけますか?
高橋:行政で言うと、確かにデジマケの取り組みは進んできていると思うんですが、やっぱり紙文化というか、紙媒体であるチラシとかポスターとかに頼る部分がどうしても多くて、そこをやっぱり一回切り替えてみるやってみるっていうのが大切だと思います。
―――一言でまとめると、デジタルに取り組む勇気みたいな。
高橋:そうですね。思い切ってやってみる、っていうマインドですね
―――それでは次に青木さんお願いできますか?
青木:自治体の場合予算が決まっているので「成功しなきゃいけない」みたいなところがあるんですよね。でも失敗を恐れずというか、失敗したときに「何が悪かったのか」っていうのを必ず振り返って次に生かすっていうのが個人的には大事だと思います。とりあえずやってみて、失敗したとしてもそれを無駄にしないことですね。
―――それは大事ですよね。いわゆるPDCAをおろそかにしない、っていうことではあるんですが、PDCAのプロセスとそのマインドの両方ですよね。
青木:あきらめない根気強さというか。
―――なるほど、それでは最後に三浦さんお願いします。
三浦:お二人の発言を踏まえて何が重要かと考えると、やっぱり計測環境を整えることですね。Webサイト来訪やコンバージョンをGoogle Analyticsで計測、Microsoft Clarityでヒートマップ調べてサーチコンソールで検索動向を追いかける、広告についてもゴールを定めてしっかりイベント計測を実装する、というのが大事かなと思います。
数字さえ正しくとっていればそれは絶対無駄にならないわけじゃないですか。そこさえ整えておけば、そこからデータを基に作戦立てもできて、まず取り組んでみる時にも使えるし、もちろんPDCAにも使えるわけで。そういう意味でお二人の発言を踏まえると、まずこの計測環境を整えることが重要かなと思います。
―――いや、それは本当にそうなんですよね。世の中にいろんなデジマケのコンサル会社たくさんあると思うんですが、弊社の特徴って「計測」を非常に重視していることなんですよね。
計測のデータって高橋さんの言う「トライする勇気」を後押ししてくれるし、青木さんが言う「PDCA」の基盤にもなるわけで、そういう意味ではお三方がおっしゃった「自治体デジマケで一番大事なポイント」のそれぞれに何かしら貢献できたのかなとも思います。
今日は長い時間本当にありがとうございました。

いかがでしたか?「足腰の強いデジタルマーケティング」のすごさがよくわかるお話だったように思います。PDCAをしっかり回すことはともすると地味に見えますが、デジタルマーケティングの効果を最大化するには必要不可欠なプロセスだと思います。また「自治体のデジタルマーケティング」において最も必要な「勇気」と「あきらめない努力」そしてそれを支える「計測環境」が大事だというのも、シンプルながらも本質的な議論だと思います。
そういった「自治体デジマケ」の環境を三年かけてしっかり整え展開されてきた、栃木県デジタル戦略課の具体的な取り組みを掘り下げた前編はこちらからどうぞ!