
1. 昨今の生成AI「ブーム」
近頃、さまざまな生成AIが日常的に使えるようになってきましたね。
私自身も個人的な趣味として音楽制作をしているのですが、その延長で最近はミュージックビデオ制作にも手を出し始めています。
そんななかで活用している生成AIを挙げると、例えば――
- ChatGPT(歌詞制作、アレンジのヒント)
- DALL-E 3(ジャケット制作)
- RenderNet.ai(MV制作)
- Runway(MV制作)
仕事でもAIを活用していますし、先日ようやく Copilot+PC も導入したところです。おかげで今後の制作も、ますますはかどりそうな予感がしています。
(もっとも、最近は仕事が忙しくなってきたので、そもそも制作の時間が取れないという現実もあるのですが。)
さて、こんなふうにおそらく平均よりもかなりヘビーにAIを使い込んでいると、自ずとソーシャルメディアで流れてくるコンテンツも「生成AI活用系」のものが多くなります。
たとえば――
- 「ChatGPTはもう古い!できるビジネスマンが使ってる〇〇専用AI!」
- 「圧倒的タイパを実現するChatGPT活用術!」
- 「このプロンプト一つでChatGPTの答えが変わる!」
まあざっとこんな感じですね。
もちろん、私自身AIの活用を否定するどころか、むしろ積極的に使う側の人間ですし、「プロンプト次第でAIの出す答えが変わる」というのも事実だと思っています。
ただ、それでも最近ひとつどうしても拭えない違和感があるのです。
それは――
「AIを使うこと」そのものが“目的化”している人が、あまりに多い。
そして、AIを「手段」として使うために本来必要な「知性」や「思考する力」が、どんどん失われていくのではないか――そんな危機感すら覚えるのです。
実際、先日ある友人と話していたときに、こんなことを言われました。
「職場でCopilotの研修を受けたんだけど、だんだん自分が頭が悪くなっている感覚がして、途中からすごくつらかった」
その言葉と友人が説明してくれた研修の内容を聞いて、私は「それはむしろ正常な感覚だ」と思いました。
なぜなら、その研修は「AIの使い方」ばかりを教えていて「AIを使って何を実現したいのか」という問いが、一切抜け落ちていたからです。
そして――
こうした「思考の放棄」が、今後マーケターの現場でも確実に広がっていく危険を、私は強く感じています。
2. 「思考の放棄」が成長を阻害する
生成AIは、いまやビジネスパーソンにとって避けては通れない重要なテクノロジーであり、積極的に活用すべきものであることに異論はありません。
しかし一方で、「生成AIをどう使うか」には、使い手自身の知性の強度が如実に反映される――この点を、ここではっきりとお伝えしておきたいのです。
もう少し正確に言うならば、
目的意識が欠落したAI利用は「思考の放棄」を招き、ビジネスパーソンとしての成長を阻害する。
その結果、自らAIを使うのではなく「AIに使われる人材」になりかねない。
こうした危機感が、今まさに現実のものとなりつつあります。
実際、私が行っている研修でも、この問題を痛感することが少なくありません。
例えば、弊社の研修の中では「宿題」を出すことがありますが、その中で 「AIのアウトプットをそのまま提出する」 人も、決して少なくないのです。
ここで一つ例を挙げましょう。以下は「AppleのITPについて簡単に説明してください」というプロンプトに対してChatGPTが出した回答です。
簡単な概要
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | Intelligent Tracking Prevention (ITP) |
導入時期 | 2017年から段階的に実装(Safari 11以降) |
目的 | ユーザーのプライバシー保護、不要なトラッキングの排除 |
対象 | 主にサードパーティCookie(他サイトを跨いでの追跡) |
動作 | AIと機械学習を使って、ユーザーを追跡しそうなドメインを検出・制限 |
影響 | リターゲティング広告、コンバージョントラッキング、アナリティクス精度に影響 |
ポイント
- サードパーティCookieはほぼ完全にブロック。
- ファーストパーティCookieも条件によっては7日間や24時間など寿命が制限されるケースがある。
- ローカルストレージも対象になる場合があり、単なるCookie対策以上の影響範囲がある。
- サイトを跨いだユーザー識別や広告ターゲティングが難しくなる。
一見、正しく要点を押さえているように見えますし、このアウトプット自体に大きな問題があるわけではありません。
ですが、問題は「この情報をどう使うのか?」という問いには一切答えていないことです。
生成AIが出した答えを「正しい」と仮に認めたとしても、そこからどうやってクライアントの課題解決に結びつけるのか?マーケティング戦略にどう活かすべきなのか?
――その思考は、AIではなく“あなた”がするべき仕事なのです。
そして、ここが一番大事なポイントです。
Googleで「ITPとは?」と検索し、自分で調べた情報を理解・要約してパワポに落とし込む
生成AIに「ITPについて教えて」と聞き、そのままパワポにまとめる
この二つの結果が「同じようなスライド」だったとしても――そこに費やした思考量と学習効果には、決定的な差があるのです。
前者のプロセスでは、自分で情報を取捨選択し、つながりを考え、因果関係を理解し、自分の言葉で語る力を鍛えます。
一方、後者のプロセスでは、思考そのものをAIに丸投げしているに過ぎません。
もちろん、どうしても時間がないときにAIの力を借りることは実務として否定しません。
ただし、常にそのやり方を選び続けると、自分の思考力は確実に退化していく。
そしてその延長線上には「AIがなければ何も生み出せない人材」という未来が待っているのです。
3. 「AIがもたらす愚かさ」=思考停止による成長阻害
さて、ここまでお読みいただければ、今回のBlogで私が伝えたい趣旨はご理解いただけたのではないかと思います。今回の投稿タイトルにある 「AIがもたらす愚かさ」 とは、端的にいえば――
生成AIの利用による“思考停止”が、ビジネスパーソンとしての成長を阻害する
――この一点に尽きるのです。
ある程度、社会人経験のある方なら一度は感じたことがあるでしょう。
「同じような仕事をしていても、5年後に成長の度合いがまるで違う」
それは決して珍しいことではありません。
そして、その差を生む最大の要因こそが――
「考えながら仕事をしていたのか」
「言われたことだけをこなしていたのか」
この違いに他ならないのです。
つまり、生成AIを“本当に”使いこなすために重要なのは、「プロンプトテクニック」ではなく――
そもそも日々、どれだけ“考えながら”仕事に向き合っているか、その姿勢なのです。
世の中には「便利なテクニック」が溢れています。
冒頭で触れたような
「このプロンプト一つでChatGPTを使い倒せる!」
といった情報は、その典型でしょう。
けれど、少し考えればわかることですが、もしそんな魔法のようなプロンプトが存在するなら、誰もがそれを使い始め、結果として差別化にならないのは目に見えています。
だからこそ、AI時代にあっても、いや、AI時代だからこそ――
「考えながら仕事をする」という、一見古くさい、けれど本質的なスタンスが重要なのです。
さらに踏み込むなら、これからの時代、特にマーケターにとって不可欠となる「考える力」は以下の3つの軸に集約されるでしょう。
✅ 3-1. 課題発見能力
単に「課題を見つける」だけではありません。
一つの課題を、複数の切り口から俯瞰し、多面的に捉える力です。
例えば、生成AIに課題を提示してアウトプットを得たとしても、その答えを鵜呑みにせず、自分なりに 「他の観点からはどうだろう?」 と問い直すことができなければ、表面的な理解にとどまってしまいます。
また、そもそも適切なAIのアウトプットを引き出すためには、「この状況をどのようにAIに説明すればよいか?」 という 複雑な視点の整理が必要になります。
つまり、良いプロンプトを書くためにも 「課題の本質を考え抜く力」 が不可欠なのです。
✅ 3-2. 仮説思考
課題発見と表裏一体となるのが 仮説思考 です。
例えば、「CVR(コンバージョン率)が下がっている原因を考えて」とAIに尋ねれば、AIはおそらく
「ランディングページの見直し」「クリエイティブの変更」
といった一般論を返してくれるでしょう。
しかし、AIは
「最近の社会的トレンドの影響」「競合の新施策による影響」といった、より広範な仮説までは提案しません。
“なぜ今この問題が起きているのか?”
その背景にある要因を複数考え抜き、「自分なりの仮説」をもってAIに問いかけることで、はじめてAIのアウトプットが「あなたの思考のパートナー」として機能するのです。
✅ 3-3. 人をまとめる力
そして最後に、AIが決して持ち得ないもの――それが 「人を動かす力」 です。
AIは論理を提示できます。でも、それが「現場」で実行されるかどうかは 人の感情 に依存しています。
「空気を読む」と言うと語弊がありますが、「相手の温度感を察する力」 がなければ、AIが導き出したどんな正論も絵に描いた餅です。
クライアントや上司、メンバーと向き合い、時にAIの出した「正論」をあえて曲げる判断も含めて、人間関係の中で意思決定できる人だけが、AI時代に価値を持ち続けるのです。
だからこそ、AI時代に求められるのは「AIを使える人材」ではなく――
「AIを使いながら、なおも考え続けられる人材」 なのです。
4. AI時代にマーケターが取り組むべき「教養」
さて、最後に「AIを使いながら、なおも考え続けられる人材」について、少し掘り下げて考えてみましょう。
こうした「考え続けられる人材」になるためには、どのような訓練が必要なのでしょうか。
最近ようやく私自身も確信するようになったのですが、結論を先に言えば――
生成AIを使いながら、そのアウトプットを見て『これは違う、俺が求めているのはこれじゃない。じゃあ、本当に求めているものは何だ?』と問い直し続けること。
つまり、生成AIの答えを鵜呑みにせず、アウトプットを材料に「自問自答」を繰り返すこと。
それ以外に「考え続けられる力」を鍛える方法はないのではないか――と、今は思っています。
言い換えれば、これは 「哲学」 の領域です。あるいは「思考のフレームワーク」と呼んでもいいでしょう。以前のBlogで私が「健全なる猜疑心」という言葉を使いましたが、それとほぼ同義だと捉えていただいても構いません。
そして、この視点からもう一歩だけ踏み込んだ別の切り口でお話しすると――
もはや「明確に正解がある仕事」 は、おそらく人間はAIに勝てません。今はともかく、近い未来にはきっとそうなっているでしょう。
AIの知識量、そしてCopilot+PCなどに搭載されている最新のNPU(Neural Processing Unit)――1秒間に50兆回の計算を可能にする専用チップが支える計算能力。
こうした圧倒的な処理速度の前に、人間が「知識」や「計算速度」で勝負する時代は、終わりつつあります。
ですが――
「正解がない仕事」は、これからも人間に残される。
例えば、社会的な課題、クライアントの複雑な事情、顧客心理の揺らぎ――こうしたものには「唯一の正解」は存在しません。
AIはそうした問いに対して 「平均的なアドバイス」 を提示することはできるでしょう。けれど、それはあくまでヒントであって、答えそのものではないのです。
そして、だからこそ重要なのが、こうした「正解がない問い」に向き合い続ける 人間としてのマーケター の存在意義なのです。
言い換えるならば――
「ある立場の正義の真逆に、別の正義が存在する」
「どちらの正義を取るべきか」が問われるのが、これからのビジネスの現場
まさにこれは 哲学的な思考 にほかなりません。
だからこそ問われるのは、その深い思考を支えられるだけの「知性」です。
そして厄介なことに、人間は「知らないこと」については、考えることができないのです。
つまり――
AIと共に働く時代にあって、人間に求められるのは「考える力」であり、その土台としての「知識」と「教養」
生成AIがいくら進化しても、そのアウトプットの限界を見抜くための「自分自身の思考回路」がなければ、使いこなすどころか、振り回されるだけになってしまうでしょう。
だからこそ、これからAIと共に生きる私たちに求められるのは――
- 日々の情報収集
- 多様な価値観に触れること
- そして、深く考え続ける「自分の問い」を持つこと
こうした地道な訓練によってしか、「AIを使いながら、なおも考え続けられる人材」 にはなれないのです。
というわけで、このBlogも締めたいと思いますが、最後に一つ考えてみてください。
あなたは、AIが出したその答えに対して「本当に自分が求めているのは何か?」と問い続けていますか?
もし、この問いが少しでも心に引っかかったなら、きっとあなたは 「考え続けられる人材」 になれる素質を持っているのだと思います。さあ、今日のあなたは、AIとどう向き合いますか?
※この文章は原案と草稿を弊社で執筆、ChatGPTにて最終校正をしたものです。