現象にとらわれず構造を読む:広告代理店で伸びる人の思考法

現象にとらわれず構造を読む:広告代理店で伸びる人の思考法

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ゴールデンウイークも終わり、4月から広告代理店に入社した方々も段々と仕事に慣れてきたころだと思います。クライアントさんとの打ち合わせの同席、初めてのレポート作成、ひょっとしたらちょっとした分析資料についても先輩の業務を見ながら取り組んでいる方もいらっしゃるかもしれません。

さて、弊社は広告代理店さん向けの人材育成、特にOne on One研修を中心としたデジタルマーケティングのコンサルタント育成の事業を展開しています。そんな事業を展開している弊社ですが、今回のBlogでは特に新人時代(イメージ的には入社から3年目あたりまで)の方が意識をしておくと、25歳から30歳にかけて「ぐん」と伸びるポイントをご説明したいと思います。

そのポイントは「目の前の課題」を「目の前の課題だけで考えない」ということです。少し汎用的な言い方をすると「具体的」な課題を「抽象化」して考える意識を持っておきましょう、言ってもよいでしょう。

「具体的」な課題を「抽象化」して考える、という表現ではちょっとわかりにくい方もいらっしゃるかもしれませんので、この投稿では「現象」と「構造」という表現で説明してみましょう。

例えば皆さんが今相対しているクライアントさんで「CPA」が高い、という「現象」があったとします。これが「具体的な課題」というものです。「現象」はその時発生してる状況であり、常にクライアント固有のように見えます。でもちょっと考えてみてください。「CPAが高い」という「現象」は今の皆さんの目の前のクライアントさんだけに起こっている「現象」ではありません。

おそらくデジタル広告を実施しているほとんどのクライアントは「CPAが高いな、下げたいな」と思っているでしょう。つまりこの「CPAが高い」という「現象」は「目の前の課題」であるのと同時に、ほかのクライアントでも発生していることがお分かりいただけると思います。

となると、この「CPAが高い」という現象には、その現象が発生する要因となった「構造」が存在しているような気がしませんか?もっとわかりやすく言えば、CPAが高いという「現象」がいろいろなクライアントで発生している「共通の理由」が存在しそうな気がしませんか?

特に広告代理店に入ったばかりの新人の皆さんは「目の前の課題」を分析したうえで「共通の因子」を考えることを意識することで、その後の成長が一気に加速することが期待できるんですね。

もう少しだけ「CPAが高い」という「現象」を例題に考えてみましょう。

CPAの計算式は皆さんご存じの通り「広告費用をコンバージョン数で割ったもの」になります。数式でいえば

CPA=Cost/CVs

この式をもう少し考えてみましょう。Cost=CPC×クリック数、CVs=クリック数×CVRとなりますので、それを上記の式に代入してみましょう。

CPA=CPC×クリック数/クリック数×CVR

この式は分子と分母の両方に「クリック数」が含まれているので「約分」ができます。というわけで約分をしてみると

CPA=CPC/CVR

という式に変わりました。つまり「CPAが高い」という現象は「CPCが高い」または「CVRが低い」という「構造」によってもたらされている、といえるわけです。

この考え方を知っているだけで、クライアントさんが言う「CPAが高い」という「現象」を、「構造」として捉えることができます。「CPAが高いんです」という相談を受けたその瞬間に「CPCが高いのか?CVRが低いのか?またはその両方か?」という「構造」から分析をすることができると言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。

つまり「現象」に閉じた思考では、あらゆる「現象」についての考察や分析が「一つのクライアントだけで個別最適」されてしまいます。そうなると別のクライアントさんに対応するときにまた同じような思考を繰り返さないといけません。ところが、一つの「構造」を理解しているだけで、ほかのクライアントの同様な現象について、思考を展開していける、ということになるわけですね。この思考法を若いときに身に着けておくと「一つの経験」から学べる「量」が圧倒的に増えていきます。

一つの「構造」を理解しておけば、多様な現象への応用がきく。これが、伸びる人が若いうちから身につけている視点です。

この「現象」と「構造」の理解は、特に生成AIが普及している現在だからこそ特に重要です。

今回はCPAを例にとりましたが、他にも、「CVRが下がってきた」「クリック率が落ちている」といった現象にも、それぞれ構造がある——この目線を持つことが、経験の“質”を高めていきます。

皆さんも生成AIを活用して何かしら提案の仮案を作ることなどもあると思います。このとき、もし「現象」だけをプロンプトとしてAIに投げてみてもAIはあくまでその「現象」の範囲内でしか回答をしてくれません。しかしここで「構造」がわかっていると、生成AIに投げるプロンプトの段階で「現象」とその背景にある「構造」の説明までが可能になります。

生成AIはもはや人間が保有する知識量をすでに上回っています。ただ、我々人間がAIに問いを投げるときに「現象」の範囲の説明では、その知識量のごく微量な範囲でしか回答をすることはできません。しかし「現象」と「構造」を含めた問いを立てることで、生成AIの回答は一気に解像度が高く、実務でも利用できるレベルにまで向上していきます。

つまり「生成AIを使いこなす」というこれからのビジネスパーソンのスキルにおいて「現象を観察して構造を発見するスキル」が非常に重要になっているわけです。

実は私の研修(特にOne on One研修)では、ほぼ必ずこの「CPAの計算式」について尋ねています。この質問自体が「現象」と「構造」、そして「具体」と「抽象」の思考力を図る一つのリトマス試験紙になっているからです。

ぜひ日々の仕事をじっくり観察して「現象」から「構造」を発見できる思考力を若いうちに育てていきましょう!