広告代理店の「提案力」を因数分解する

男性が広告代理店の提案力について解説をしている写真

目次

実は広告代理店の「提案力」は「個人」に依存する部分と「組織」に依存する部分があります。ただ注意してほしいのは「組織」に依存する部分が「個人」の能力を押し下げることもある、というお話です。

まず元理系の人間として言うと、広告代理店の提案能力は以下のような計算式で表現することができます。

提案力=提案者個人の力×(組織の支援体制+人間関係)

もうちょっと理系っぽく表してみたいので

提案力=S
提案者個人の力=i
組織の支援体制=o
人間関係=r

と置き換えると

S=i*(o+r)

という計算式が成り立ちます。

つまり広告代理店がクライアントとのコンペで勝ち、そして成果を残すための力である提案力Sは「提案者個人の力」と「組織の支援体制と人間関係」の掛け算で決まるわけです。

というわけでもうちょっと見ていきましょう

提案者個人の力である「i」には様々な要素が含まれます。媒体知識、技術知識、パワポの分かりやすさ、プレゼンのうまさなど、様々な因子が含まれます。

弊社では8系統51項目のチェックリストでこの「個人の力」を分解して研修を提供していますが、お客様である広告代理店各位から伺う研修効果、上長ヒアリングなどを踏まえると、この方針はそこまで間違っているわけではなさそうです。

ただ、このiが「提案力」として発揮されるかどうかはまた別問題なのです。

もちろんこの「個人の力」を引き上げる必要性を私は否定するつもりはありません。弊社のOne on One研修で「個人の力」を引き上げた方々のその後の活躍や、代理店各位でのアンケートを見ても「個人の力」を引き上げることは必要不可欠です。

しかしながら、仮に媒体知識も技術知識も万全に理解していて、パワポもうまくてプレゼンもうまい人、つまりiが極限まで高い人がいたとしても、それは「提案力(S)」ではありません。むしろ本来持っている個人の力が削られてしまい、提案力に繋がらないケースのほうが多数派です。

したがって次の変数を考える必要があります。それが組織の支援体制である「o」と人間関係の「r」です。

さて、仮に「個人の力」である「i」が、組織の提案力である「S」とイコールである場合を考えてみましょう。つまりその個人の実力がそのまま発揮できているケースです。

S=i(o+r)なのでo+r=1となります。

ではここで、広告代理店の中の人間関係が非常に悪い、という仮定を導入してみましょう。非常に優秀なiを持った提案者ですが、人間関係が悪い代理店の中ではクリエイティブ担当や入稿担当に依頼をすることが憚られます。つまりr(人間関係)がマイナスであることがあるわけです。

そうなるとどうなるのかを考えてみましょう

先ほどo+r=1となりました。もしrが「マイナス0.5」だった場合、o+rは0.5になります。つまり本人の実力の半分しか提案では発揮できないわけです。

さらに会社としての支援体制を考えてみましょう。提案にまつわる媒体についての勉強やプレゼンの時の立ち居振る舞いなどの学習を完全に個人任せにしている場合、つまりoが事実上存在していないケースを想定すると、oがゼロであり、rがマイナス0.5、つまりiがどれだけ高くても実際の提案力であるSはマイナスです。

もっとかぶせるなら形だけのダブルチェックや、意味のない承認フロー」は、支援体制「o」に見えて、実は提案力である「S」をマイナス方向に大きくする「足かせ」にしかならないわけです

実際に私がOne on One研修で取り扱ったケースを見てみましょう。ある代理店さんで、あるクライアントに対して研修受講者は「現状を冷静に分析した結果、獲得の予算を削ってでも認知領域に振るべきだ」というロジックを組み立てました。

じゃあそれを提案すればいいじゃないか、と誰でも思うだけの非常に整理された提案骨子でした。しかし彼はこう続けたのです。

「弊社の制作部門(バナーとか動画とかを作るチーム)が嫌がるんですよね。あと会社としても(制作チームの残業が増えるので)それを推してないみたいで・・・」

これがまさに「i」が削られ、Sに繋がらない典型的なケースです。

このケースでは制作部門との人間関係である「r」がマイナスなだけでなく、会社としての支援である「o」もマイナス方向に偏ります。つまりiがどれだけ頑張ってもろくな提案にはならないわけです

しばしばデジタル広告において、提案は「誰でもできるもの」だと思われがちです。確かにある程度の媒体の特性さえ話せれば提案っぽい振る舞いをすることは時間がかからずできるでしょう。

しかし「提案力」の本質は「媒体の特性を説明する」ことではありません。提案力の本質は「クライアントの課題を解決すること」なのです。

個人の力(i)が十分に高ければ、課題を解決するための「作戦」を作ることはできます。しかし「人間関係」と「組織の支援」がマイナス方向に働くことで、それは「提案」として結実せず、結果として「提案力がない」という社内評価につながってしまいます。

結果としてその受講者はその代理店を退職し、新たな道に進みました。いまだにfacebookで連絡を貰っていますが、新しい転職先ではバリバリに活躍しているようです。

つまり、組織が「o」や「r」を放置することは、高価な資産である「i」をドブに捨てるのと同じなのです。前出の受講者は実際に転職先で活躍しています。つまり、「i」は不変だったが、転居先の「o+r」がプラスだっただけで、「S(提案力)」 が跳ね上がったのです。

例えば上記の例において、クリエイティブ部門と人間関係が悪いとしても、上長が責任をもって交通整理をし、お互いの妥協点や合意点を見つける努力をしていれば、おそらく人間関係の「r」がマイナスでも、それを打ち消すだけの「o」が存在し、結果としてiとの掛け算ではプラスに転じたでしょう。

さらに言えば上長のディレクションや差配以前に、全社的な研修の導入や相互理解促進の仕組みの導入などにより「人間関係はやりづらいが、仕事としては推進できる」という環境を作ることは可能です。

そうなると仮にrがマイナスだとしてもoの力で打ち消すことができます。

そしてこのoとrがプラスの方向に働くと、iの成長速度が高くなります。これは「Try and Error」における心理的安全性が担保されることで、経験値が高まり、結果として成長速度として反映されるからです。

つまり「個人の力」が発揮できるか否かは「組織」の問題なのです。

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sembear
sembear合同会社の代表・CEO。Overture、Yahoo! Japan、NTTレゾナント、Kenshoo、SIGNALなど、アドテクノロジー・マーケティングテクノロジー業界で要職を歴任。現在は広告代理店の人材育成事業をメインに担当。研修受講者の行動変容率が九割に迫るOne on One研修がライフワーク