
sembear合同会社では、奈良県吉野町が2025年2月3日に発表した新たなシティプロモーション戦略『100年後に吉野を繋ぐプロジェクト「挑戦の地、吉野」』にてマーケティング戦略策定を支援しました。
今回は、吉野町さんと行ったお取り組みを事例としてご紹介!
シティプロモーション戦略策定までに行ったプロセスやシティプロモーション戦略を作るために大切なことなどをお届けします。
「シティプロモーションを打ち出したいけど、どうすればいいかわからない・・・」「ほかの自治体はどうしているんだろう・・・」などお悩みの自治体の皆様、必見です!
目次
ステップ1:シティプロモーションのゴールを考える
さて、みなさんはシティプロモーション担当になったらまず何から考え始めますか?
「どうやってまちの魅力をPRしよう?」「”〇〇なまち”というスローガンを決めたいな」「参考にうまくいっている他の市町の事例を見てみようかな」など様々なことを思い浮かぶかと思います。
弊社ではシティプロモーション戦略構築のステップとして、マーケティングの考えから、まずは「シティプロモーションのゴール」を考えることから始めます。
シティプロモーションのゴール=「シティプロモーションで何を達成したいか」を、最初に明確にすることは非常に重要です。
例えば、「観光地として知名度を上げること」をゴールしているのに、住みやすさをアピールする。逆に「子育て世帯を増やすこと」をゴールとしているのに観光スポットを紹介する。それではなんだかミスマッチですよね。
ゴールを決めないまま戦略を構築していくと、闇雲にアピールしたいことを並べただけの効果の薄いシティプロモーションとなってしまい、結果何も達成できなくなる可能性があります。
吉野町のシティプロモーションのゴール
吉野町でもまず担当課のみなさんとゴールから考え始めました。
吉野町は、少子高齢化や人口減少が急速に進んでおり、かつて2万人いた人口も現在は6000人を切っている状況でした。また昨年2024年4月には、消滅可能性都市の下位10自治体の1つとして位置づけられる結果となっていたことから、「移住定住者を増やし、人口を増やす」ということをシティプロモーションのゴールとしました。

ステップ2:シティプロモーションの推進体制を考える
シティプロモーションのゴールを決めた後、まずは吉野町の現状を把握するため各課へのヒアリングを行いました。
実際に各課の職員さんにお話を伺ったところ、「吉野町はこのままではいけない」と現状への危機感を皆さん持たれていて、過去にも様々な施策を行われていたとのことでした。
しかし、どうしても膨大な業務量に対して職員数が限られており、なかなか定期的な情報発信や施策の継続を行うことが難しいという『人・時間・予算などのリソースが不足』している状況でした。
吉野町さんのような小規模な自治体でシティプロモーションを成功させるためには、限られたリソースの分散を防ぎ、最小のリソースで最大限効果を発揮できるような戦略が必要です。
そのためには、現在それぞれの課で行っている施策を単発で終わらせずに他の課の施策にも関連させることで相乗効果を生み出すため、部署を横断した戦略の推進体制が必要不可欠でした。
そこで、シティプロモーションの推進体制は、担当課だけではなく、全庁的に統一して推進していく戦略として打ち出してくことになりました。

ステップ3:現状分析で「真の現在地」を正しく把握する
ステップ1・2から吉野町の戦略構築の前提条件として以下の2点が見えてきました。
- 1.移住定住で人口増を目指す戦略であること
- 2.全庁的に推進していく戦略であること
全庁的な戦略構築のため、移住・観光・ふるさと納税・スポーツ振興など関係人口拡大に関連する課の職員さんと共に、シティプロモーション戦略に関する意見交換会を実施し、吉野町の現状分析から始めました。
現状分析のステップでは、強みや弱みを全て洗い出して把握し、その後「本当に強みと言えるのか?本当に戦えない弱みなのか?」を競合自治体と比較することで、主観に偏らない『真の現在地』を明確にすることが重要です。
職員さんの内部からの視点だけでなく、外部である弊社の視点や、データから分かる情報を踏まえながら、
「吉野と言えばやっぱり桜じゃないですか?」
「林業も若い人主体で色々やってるんですよ〜!」
「でも飲食店とかは少ないよなぁ・・・」
など思い浮かぶまま意見を出し合い、模造紙にぺたぺたとふせんを貼りながら議論を進めていきました。

吉野町シティプロモーション戦略P.6(https://www.town.yoshino.nara.jp/material/files/group/2/citypromotion.pdf)
意見交換会を進める中で出てきた真の問題
現状分析を進める中で、強みとして桜(観光)・林業・ワーケーションやリモートワークができる施設などが上がる一方、弱みとして交通や住環境などの生活インフラの弱さに行き当たりました。
特に大きな問題として「すぐに住める場所がない」というものがあり、アパートのような簡易的に住める物件が少なく、町内に多数存在する空き家も改修が必要なものが多く、即入居できる物件がほぼありませんでした。そのため、これからシティプロモーションをして移住希望者を増やしたとしても、受け入れる場所がないという状況が見えてきたのです。
そこで吉野町のシティプロモーション戦略では、
第一段階:「町の発展を促進するための土台を整える施策」で移住希望者を受け入れる環境づくり
第二段階:「移住・定住人口の獲得を狙う施策」
という二段構えの戦略を構築し、それぞれの段階で別のターゲットの獲得を目指すことになりました。

吉野町シティプロモーション戦略P.8(https://www.town.yoshino.nara.jp/material/files/group/2/citypromotion.pdf)
ステップ4:シティプロモーションを現実化する市場分析・ターゲット選定
では、どんな市場でどんなターゲットを狙っていくか議論に入っていきます。
・・・が、ここで職員さんから「振り切ったコンセプトでターゲットを絞り切ってしまうのはリスクがあるのではないか?」というご意見をいただきました。
そう考えられた理由をもう少し深掘りして伺うと以下のような懸念がみえてきました。
ターゲットを絞ることへの懸念
①戦略で決めたターゲット以外を受け入れられなくなってしまうのではないか?
②広くあまねく公平でなくてはならない行政機関の特性上、ターゲットは絞ってはいけないのではないか?
③新しいターゲットは今の町民に受け入れてもらえないのではないか?
日々の業務で実際に町民や移住希望者の声と向き合われてる職員さんだからこそ、そこはすごく慎重になられるところでした。
実はこれらは他の自治体でもターゲットを決める際によくいただく質問なのですが、『ターゲットを絞る=ターゲット以外を受け入れない』というわけではありません。
ターゲットを設定するということは『どういう人が吉野町に来てくれそうか』を考え『その人に何を伝えるべきか』を整理するための手段です。
なので、①と②の懸念については、新たなシティプロモーション戦略で吉野町の価値の見せ方を再構成するためにはターゲットを絞ることが重要である・・・が、それは吉野町の今までの魅力を排除するということではないです。
また③については、「住民からも愛される戦略にできるかどうか」が非常に重要だと考えています。
いくら移住者がたくさん獲得できる戦略になったとしても、元々の住民を無視した戦略になることで住民からの反発が起き、結果せっかく獲得した移住者も馴染めず・・・という本意ではない展開は絶対に避けなければなりません。
「よそ者が来たせいで大切にしてきた文化や伝統が台無しになった!」ではなく、「新しい人が増えてきてこの町も賑やかになってきたなぁ」というポジティブなイメージを持ってもらい、住民が自分たちの土地へ愛情や誇りを持つことのできる戦略を構築する必要があります。
そういったことも考慮しながら、市場調査やデータの分析を行い慎重にターゲット選定を行いました。
その結果、第一段階のターゲットは年々拡大している投資市場に着目し「吉野町の空き家へ投資をする人」、第二段階のターゲットは関西の若い年代の女性労働力の落差が大きいという調査結果と吉野町の強みであるコワーキング施設や起業に対する支援などライフスタイルの変化に柔軟に対応できる環境を提供することで「多様な生き方をしたい女性」としました。

ステップ5:ターゲットが惹かれる新たな吉野を表現するコンセプトコピー
シティプロモーションの方向性とターゲットが決まったところで、いよいよシティプロモーションでまちの価値を伝えるコンセプトコピーを考えていきます。
栃木県真岡市の「いちご王国栃木の首都もおか」や、千葉県流山市の「母になるなら流山」のようにシティプロモーションで一番よく聞く部分ですね。
ここで重要な考え方は「どうすればターゲットが魅力的に感じるか、ターゲットの目線で考えること」です。
第一段階の「町の発展を促進するための土台を整える施策」の空き家投資や活用、第二段階の「移住・定住人口の獲得を狙う施策」の自己投資からの起業・・・この二軸をまとめてあげ、どう表現すると2つのターゲットが魅力的に感じるか議論していく中で
職員さんの一人から
「“挑戦”ってどうですか?」
という意見が上がりました。
それは意見交換会が始まってから職員さんの中で「吉野町はこのままではあかんやろ。挑戦していかなあかんやろ」と度々登場したワードでした。
「挑戦」という言葉は抽象的で一見どの自治体でも使われそうな言葉に聞こえますが、吉野町にとってはまったく脈絡のない言葉ではなく、修験道や歴史的背景、古くから紡がれてきた技術や伝統を継承し続ける町の在り方から「挑戦」という言葉が地域にが息づいていたため、非常にしっくりくる言葉でした。
“挑戦”というワードが出てからは
「そしたら、”挑戦の町、吉野”かな?」
「いや、”挑戦の町”やったら行政が挑戦するって風にターゲットに見えるかもしれん」
「そしたら────挑戦の地、吉野?」
「それすごくいいですね!!」
と、流れるように議論が進み、コンセプトコピーが「挑戦の地、吉野」に決定。
空き家投資へ挑戦する人、多様な生き方を実現するために挑戦する人、新しいことへ挑戦し続けている町の人々、そして職員の皆さんの新しい未来づくりへの挑戦────
古くから吉野町で紡がれる挑戦の文脈を新しい時代にも紡いでいくことで、挑戦したい人の一歩を後押しできる場所として、シティプロモーション戦略『100年後に吉野を繋ぐプロジェクト「挑戦の地、吉野」』は策定されることとなりました!
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シティプロモーション戦略策定に携わった職員さんのコメント
今回は、吉野町さんとの戦略策定に至るまでのお取り組みをご紹介いたしました!
今後、吉野町さんでは「吉野町を100年後に繋ぐプロジェクト」として、発表されたシティプロモーション戦略を推進し、様々な事業や情報発信を進められます。
この度、シティプロモーション戦略策定意見交換会に参加された職員さんよりコメントいただきました!

【政策戦略課 参事 小原さん】
自治体における「マーケティング戦略」と聞けば、まちの魅力や強みをどのような相手に、どのようにプロモーションしていくか?につい頭がいきがちですが、自らの弱みも含めた戦略を立てることが何より必要かと思います。
とはいえ、当町では戦略ができて間もないため、これからが本番・正念場となります。戦略に沿った新たな施策を形にするとともに、常に事業の効果を検証しながら、弱みを強みへ、強みをより強くバージョンアップを図っていきたいと考えています。
ゴールはまだ遠いですが、歩みを止めず、「挑戦」し続けていきます。

【産業観光課 主査 松葉さん】
これまで、「自身のまちの強みをこうだ」と決めつけているところがありました。ただ、今回のプロジェクトの中で、それは吉野町だけでなく、他のまちにも当てはまる強みでもあるということに気づかされました。例えば、これまでは自然が豊かで、世界遺産など歴史のある町としてプロモーションを行っていました。しかし、意見を出し合う中で、移住者や転職希望者の観点に立つと、それは隣町でも良いことになってしまうのではないか?という疑問が生まれました。そこが良かったと思います。
今回のプロジェクトを通じて俯瞰的に自身の町について考え、他町村と比較し、その違いを明確に示し、ターゲットを決めた上で唯一無二のキャッチフレーズを考えることができました。だからこそ、自信を持ってこれからの施策に取り組んでいけると思います。

【協働のまち推進課 主事 荒槇さん】
今回この戦略を策定するにあたり、ターゲットを絞るという観点は非常に大切であるというのは分かっていましたが、いざ振り切ったコンセプトとターゲットにするというのは本当に大丈夫なのかという不安はありました。移住は、移住後も住み続けてもらうことが重要で、地域に受け入れてもらえるか、移住した方が地域に馴染むことができるかが難しいと考えています。ですので、より地域の意識にいかにこの戦略を浸透させていくかがカギになると思います。
吉野町出身の私としても非常に目新しい戦略だと思いますが、地域の中では新しい動きをしている方もいらっしゃるので、その土壌ができつつあるように感じます。この戦略に即した内容をどう実行していくのか、職員の私たちも新たな挑戦になろうことかと思います。
※令和6年度の戦略策定時の所属課・役職を記載
シティプロモーションで困ったら・・・
弊社では、職員さんの作る戦略であることを大切にしています。
なぜならシティプロモーションは、「戦略を作ってコンセプトを打ち出してはい終わり!」…ではなくゴール達成に向けて戦略を実行し継続していく必要があり、それを実務で行なっていくのは職員さんだからです。
外部のコンサルタントが作った一見きれいだけど現実味のない戦略ではなく、その自治体の現場のリアルや職員さんの思いが反映された血の通った戦略であることが必要不可欠です。
その職員さんの作る戦略を最大限効果的なものにするために、弊社はデジタルマーケティングのプロとして、戦略構築の議論のための材料として必要なデータ分析や調査、デジタルマーケティングの考え方やスキル習得のための研修や伴走型支援など、いろんな角度から全力でお手伝いさせていただきます!
今回は吉野町さんとのお取り組みをご紹介させていただきましたが、それぞれ自治体ごとに現状や抱える課題は異なります。まずは現状のお困りごとのご相談からでも大丈夫です!まずはお気軽にご相談ください!
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