「関係人口」の誤解が自治体を迷わせる——戦略的再構築のすすめ

関係人口を戦略的に考える

広報や移住、観光を担当する中で、ある日『関係人口の拡大』というミッションが降ってきた。けれど、いざ企画しようとするとなかなか難しい、っていうこと、ありますよね?

弊社sembear合同会社は様々な自治体さんの「関係人口拡大」や「シティプロモーション」のデジタルマーケティングを支援させていただいています。そういった事業を展開する中で、実はちょっと悩ましい問題がおこることがあります。それが「シティプロモーション」や「関係人口」という言葉だけが先行して本来の目的を見失ってしまうことがある、ということです。

もう少し考察を深めてみると、シティプロモーションはそもそも自治体ごとに「シティプロモーション係」などの部門が存在することもありますし、まだ「何をやるか」を漠然とでもイメージしやすく、そこから具体策まで掘り下げることはこの仕事をしているとよくある光景の一つです。しかしながら「関係人口」については「関係人口の拡大」というお題目だけ先行してしまい、いざ掘り下げようとすると全くイメージがないこともしばしばあります。

今回はこの「関係人口」という言葉が持つ危うさについて考えてみようと思います。

そもそも「関係人口」とはなんでしょうか?総務省の定義によると

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。
  地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kankeijinkou.html

と記述されています。

ここで書いてある「関係人口」の考え方や理念については非常に賛同できるものではあると思いますが、では「自分の自治体」における「関係人口」の在り方とはどうなるでしょう?実はこの関係人口の定義は考え方や理念としては至極真っ当ではあるのですが、実務上で考えると「結局関係人口ってどういう人か」という「定義」としてはまだあいまいになっていることがお分かりいただけるかと思います。

というのも「関係人口」というのは、それぞれの自治体の規模、状況、課題に応じて多種多様な定義が可能で、そもそも論として「今自分の街が取り組むべき関係人口は何か」を自らで定義する必要があるからです。

例えば「移住施策」や「観光施策」や「ふるさと納税」など、実際の行政の取り組みの中で「関係人口の拡大」につながる事業はそれぞれ存在します。ただ、それぞれの事業の目的は「関係人口を拡大する」ことではありません。あくまで「移住相談数を増やす」ことや「旅行に来てくれる人を増やす」こと、そして「ふるさと納税で寄付してくれる人(寄付額)を増やす」ことがそれぞれの事業の目的であり、関係人口はそれらすべてに共通する「自治体への何かしらの関係」を持つことを総称する概念でしかありません。

つまり「関係人口を拡大する」ことは確かに地方創世の文脈では必要不可欠な取り組みなのですが「移住」や「観光」「ふるさと納税」というそれぞれの事業と分離して取り組めるものではなく、全庁的な取り組みとして推進する必要が本来あります。

ただ、ここで厄介なのが「移住」や「観光」そして「ふるさと納税」という各事業は、そもそも関係人口を拡大しようと思って実施する事業ではありません。それらの事業はそれぞれで目標があり、それぞれで進めてしまっていることがあります。となると新たに「関係人口拡大」の事業をスタートしようとしても既存事業との兼ね合いや、齟齬が発生する可能性が高く、とりあえず「動画広告でわが町をPRする」という非常に空虚な取り組みになりがちです。

行政におけるデジタルマーケティングという観点で考えてみましょう。

「関係人口」という言葉は基本的に人口減少を課題とする中規模から小規模自治体における地方創世のテーマであって、そういった自治体になればなるほどデジタルマーケティングの予算は限られます。つまり、移住であれ観光であれふるさと納税であれ、それぞれの事業についてのマーケティング施策の効果も限定的です。

ただそこに「わが町の関係人口」をしっかり定義して臨むことができたらどうでしょうか?つまり「わが町の関係人口はわが町の〇〇なところを知って、××に関心や興味があり、観光やふるさと納税を通してわが町に愛着を持ってくれて、その上で将来的に移住を検討してくれる」という言語化・論理化が明確になっていたらどうなるでしょう?

移住であれ観光であれふるさと納税であれ「一つのストーリー」の中で実施することができます。つまりそれぞれの事業をとおして「わが町に関心をもって行為を持ってくれる」人を増やす「全庁的なマーケティング」に取り組むことが可能になります。別の言葉で説明をすると、移住と観光、ふるさと納税を通して「わが町の関係人口」の定義が明確であればそれぞれの事業を通した相乗効果を狙うことができるようになります。

つまり「関係人口」とはターゲットとして具体的にイメージすると同時に「わが町」のマーケティングのコアになる戦略立案の一部であることがお分かりいただけるかと思います。

弊社が「いちご王国栃木の首都真岡」というコピーを作ったのは「いちごを通していちご狩り旅行やふるさと納税をしてくれる人、そしていちご就農で移住してくれる人」という関係人口を戦略の中で据えていたからです。その結果としてふるさと納税は20倍、いちご狩り観光も1.5倍、移住相談も7倍という結果につながりました。

「関係人口」はマーケティングによくある「なんとなく雰囲気で理解する言葉」になりがちですが、しっかり言語化し戦略に落とし込むことで自治体のマーケティング効果を増幅させるアンプのような役割を果たします。まずは「関係人口」を精緻に言語化してみるところから始めてみましょう。