
1. 自治体デジマケの「仕様書」問題
日本全国の様々な自治体様のデジタルマーケティングに携わっていると、その自治体の様々な「デジマケ事業」の仕様書策定にかかわることがあります。例えば移住やふるさと納税のような「域外」向けのデジマケだけではなく、住民の方に向けた「感染症予防」や「イベント告知」などのデジタル情報発信の仕様書策定なども含みます。少なく見積もってもチェックに関わった仕様書はおそらく100は越えると思いますし、ひょっとすると日本で一番多く「自治体デジマケ」の仕様書を見てきたのは弊社かもしれません。
そしてこの「仕様書」ですが「デジマケのプロ」から見たときに、修正が必要ではなかった、つまり「最初から問題なく使えるレベルの仕様書だった」というケースは昨年だけでもゼロですし、過去数年分さかのぼってもおそらく一件も存在しません。
つまりいきなり厳しい言葉遣いになりますが「まともに使えるレベルの仕様書」ではないものがほぼすべてでした。
過去5年間、本当に多くの自治体様にて仕様書策定に携わった弊社の目から見た「ダメな仕様書」になるポイントを今回はご紹介します。
2. 「ダメな仕様書」のポイントその1:現状把握ができていない
まずかなりの割合で発生するのが「現状把握ができていない」という問題です。例えば「わが町の移住サイトへのアクセスを増やしたい」という点を仕様書に盛り込みたいとしましょう。
まずここで問題になるのが現状の移住サイトのパフォーマンスです。
例えば以下の二つの例を考えてみましょう
- この移住サイトは毎月10000セッション(来訪)で、100件の移住相談が発生している
- この移住サイトは毎月10セッション(来訪)で、1件の移住相談も起こっていない
この二つのケースでは同じ「来訪を増やす」にしても手段が異なる可能性が極めて高いわけです。前者のケースであれば現状でかなり良好なパフォーマンスになっているため、まず鉄板の手法である検索連動型広告を実施するかすらも悩みどころになります。というのもこれだけのパフォーマンスが出ていればあえて検索連動型広告を実施するメリットが少ない(≒ターゲットキーワードで十分検索結果の上位に表示されている)ことが想定されるからです。
ところが後者の場合はおそらくそもそもほぼ検索にも表示されていないでしょう。「〇〇市 移住」という検索にすら表示されていない可能性すらあります。つまり後者のケースではそもそも広告をやる以前にウェブサイトの改修を行うべきである可能性が高いわけです。
多くの自治体のデジマケ仕様書では「現状把握」がほぼできていないか、できたとしても「間違っている」ケースがほとんどです。実際に弊社が携わったケースではとある自治体では様々なサイトを作っていましたが、おおよそその半分で何かしらの計測設定の誤りがあり、実情と乖離した数値の報告が事業者からなされていたこともありました。やや余談かもしれませんが、弊社が見てきた一番ひどいケースを一つご紹介しましょう。
ある自治体の観光プロモーションサイトについて、年度末の報告書にあった「ページ閲覧数(いわゆるページビュー数)」は実際の数値の4倍以上の過剰報告になっていました。これはこの観光サイトを制作した業者が計測技術を理解しておらず、正しい計測設定ができていなかったことが理由です。しかもこの業者はその「間違った数値」に基づいてウェブサイトの改修を行ってしまいました。もちろんその改修の結果も4倍以上の水増し数値として報告されています。このデジマケ事業が実際に功を奏したか否かは皆さんのご想像にお任せしますが「誤った現状把握」から「正しい改善」が生まれることがないことはご理解いただけるかと思います。
デジタルマーケティングの実施を「ダイエット」にたとえてみましょう。ダイエットには食事療法や運動、運動の中にもジョギングや水泳など様々な手法が存在します。ダイエットとは確かに「手法の実行」かもしれません。ただ適切な手法を選ぶためには、まず「体重計」に乗って、自分の現状を把握する必要があるはずです。どんな取り組みをするにせよ、まず「現状把握」をしっかり行いましょう。「現状の把握の仕方がわからない」という場合は弊社でも構いませんし、デジマケのプロに第三者的なチェックを貰うようにすることが賢明だと考えておいてください。
3.「ダメな仕様書」のポイントその2:理想を盛り込みすぎる「目的」
次のポイントは「なんでも盛り込んでいる」仕様書です。これはシティプロモーション系の仕様書に多いのですが「市民向けに愛着を促し市外向けにも選ばれるイメージを作り、市民と行政が一丸となって市の認知度を上げつつ観光や移住もすべてにおいて効果を出す」というような「目的」になっているケースです。
これもストレートな言い方をすると、予算が1億円以上あればその実行は可能かもしれません。ただ数百万円の予算ですべてをカバーすることははっきり言って不可能です。
まず、これはほぼすべての自治体職員の皆さん向けの研修で話している内容ですが、日本においてデジタル広告の予算規模は「テレビとラジオと新聞と雑誌の総合計」を凌駕します。具体的にいうと、2024年の国内デジタル広告市場は3兆円を超え、テレビ広告の約1.5倍に達しています。もうデジタル広告の予算はあらゆるオフラインメディアの総合計を上回り、その差は開く一方なのです。
つまり、それだけ多くの企業が大量の広告費用を投下している現在のデジタル広告について「小さい予算」しか取れない場合、広告が表示される機会は非常に限られます。現実的に行政で実施するデジタルマーケティング施策の場合、多くても数百万の予算が関の山でしょう。そうなると「すべてを網羅する戦略」を実施することは夢物語でしかありません。
行政として「全方位的」に情報を出さなければならない、という理屈を否定するわけではありません。ただ現実的に「効果的なデジタルマーケティング」を実行する上では「絞り込む勇気」が絶対に必要です。
また「デジタル広告の市場規模が大きい」ことの副産物として「デジタルもオフラインもちゃんと実行できる会社」の存在が少ないことも留意するべき点でしょう。実際問題として「デジタル広告」の実施については「デジタルの専門家」が必要です。紙もデジタルもすべてを一つの会社で実行できることは地方においてはほぼ稀ですし、そういったケースにおいては「紙の納品物」はちゃんと作るものの、デジタル広告について結果を出しているケースは極めて例外的です。
このケースの実例としては、ある自治体の子育て支援啓発事業において、全く違う自治体のソーシャルアカウントで広告が配信されていた、ということがありました。パンフレットを作った業者のデジタルリテラシーの低さにより、広告配信時に表示される「自治体の名前」がまったく別の自治体になっていたわけです。これでは市民の方からしたら混乱こそすれ、子育て支援の理解なぞ進むはずがありませんよね。
目的を明確にし、デジタルをやるならデジタルに絞る、という「絞り込む勇気」を持ちましょう。
4.「ダメな仕様書」のポイントその3:目標設定が粗すぎる
三点目として挙げておきたいのが「数値目標」です。誤解を恐れずに極論するのであれば、デジタル広告の表示回数を目標とする仕様書は書いてはいけません。
これも実際に複数あったケースですが「広告の表示回数100万回」を目標とした事業について、その目標をクリアしたという報告書が提出されていました。ただ弊社がチェックしたところ、その報告書にあった「表示回数」のうち、実際にユーザーが閲覧できた表示回数は2割未満でした。つまり「見られていない表示回数を成果として報告する」という詐欺まがいの行為が平然と行われているのが「自治体デジマケ」の現状です。
これは行政側の問題も無視できません。「大きい数」のほうが見栄えする、という理由で「10回の移住相談」を目標にするのではなく「100万回の表示回数」を目標にする、という本質を無視した目標数値の設計がなされることがあります。
まず前提として、現代のデジタル広告では「最終成果」を厳密に定義し、そしてそれを測定することが広告効果を最大化します。ほぼすべてのデジタル広告には「最終成果につながりやすい人を自動的に発掘する」機能、いわゆる「自動最適化」と呼ばれる機能が存在するからです。
実際に弊社がアドバイザリーとして取り組んだ、とある自治体の就職推進事業において、この計測設定と自動最適化をしっかり稼働させるように調整した結果、前年度の25倍以上の方がその自治体で仕事を探すようになりました。これは弊社が優れていたというよりは、それ以前のデジタル広告の実施が杜撰すぎた、というべきでしょう。
この「自動最適化」を駆使するには、成果地点を定義する仮説構築の力と最低限の計測技術の知識が必要になります。すべてを理解することは不可能かもしれませんが、少なくとも「広告は見られればそれでいい」という時代は終わったこと、そしてそういうことを言ってくる業者については最大限の警戒をすることは意識をしておきましょう。
5. 最期に
そして仕様書そのものではありませんが、最も根深い問題は「プロポーザル審査における専門家の不在」です。
私自身、プロポーザルの審査員を行うこともありますが、ほとんどのケースで私は行政職員の皆さんについて、それぞれの企業の提案の解説を行っています。というのはデジタル広告の提案内容を理解できる職員さんがほぼ存在しないからです。
非常に失礼な言葉遣いであることは承知の上で「わからないものを審査する」というのは極めて危険です。貴重な財源を無駄に溶かすことがないように、プロポーザル審査では外部のプロを招へいすることを強く推奨しますし、弊社としては審査員だけの稼働であれば極めて少額で引き受けています。また、仕様書そのものの相談について、1時間の壁打ちでも、仕様書設計の精度は確実に変わります。まずはメール一本でも構いません。以下のフォームより遠慮なくご連絡ください。




