自治体デジマケの本質課題:失われた四半世紀 Part1 – 25年、止まったままの現場

自治体デジマケ:失われた25年

目次

まず答えから書きましょう。自治体におけるデジタルマーケティング・デジタル情報発信は民間のそれと比べて概ね四半世紀、つまり25年ほど遅れている、というのが、デジタル広告黎明期から「デジタルマーケティング業界」で働いてきた私の結論です。

2021年から地方自治体のデジタルマーケティング支援を行ってきた弊社ですが、この業務を約5年続けてきた弊社として、その構造的な理由が見えてきたように思います。その構造的な理由を象徴する言葉が「失われた四半世紀」となります。

それでは構造的に紐解きましょう。25年遅れている、という言葉を提示したわけで、ひとまず2000年のデジタルマーケティング、インターネットの状況を振り返ってみましょう。

まず2000年のインターネット業界における最大のニュースは「Googleの日本上陸」でした。Googleはその検索精度の高さと検索結果掲出のレスポンスの速さから瞬く間に日本の検索エンジンの主役になります。ちなみに私は1998年からLycos Japanという検索エンジン・ポータルサイトで、「人力」で検索エンジンをメンテナンスしながら検索エンジンのディレクトリ(カテゴリにまとめられたリンク集)を構築するアルバイトをしていました。当時の「ロボット型検索エンジン」はまだまだ精度が低く、人が目で見て良質なサイトを収集するディレクトリ検索も使われていた時代なのです。

そしてGoogleが検索を席巻する中で、いわゆるワードサラダや被リンク購入など、いかに検索結果をハックして上位表示を実現するか、という非常に原始的なSEO(検索エンジン最適化)が流行します。ここではPageRankなどの話は割愛しますが、現状においては効果がないどころか「ペナルティ」の対象となるような、いわゆる「悪質」なSEOの手法が確立したのがこのころ、といってもいいでしょう。そして、この手法は現在においても「自治体デジマケ」では平然と提案されているのです

もう少し象徴的な話をしましょう。弊社が支援する自治体さんではまず「Google Search Console」というツールを活用します。しかしながら自治体デジマケで「Google Search Console」を導入してくれる業者、もっとストレートに言えば「Google Search Console」の存在を知っている業者ははっきり言えば少数派です。Google Search Consoleの前身である「Googleウェブマスターツール」(厳密にいうとGoogle Sitemaps)が登場したのが2005年ですから、2000年の常識で停止している業者からしたら存在を知らないのは仕方がありません。

広告領域の話をするのであれば、GoogleとOvertureが「検索連動型広告」を日本で始めたのが2003年です。そして検索連動型広告は広告を「運用」するという新しい常識を作り、現在の「運用型広告隆盛」の時代につながっています。広告を「運用」するには明確な「ゴール」が必要ですし、ほとんどの民間企業のデジタル広告では「ゴール」を明確にしたうえで広告を「運用」することが当然の常識になっています。

ところが自治体のデジタルマーケティングにおいてはその「ゴール」の定義がなされないことがほとんどです。多くの自治体さんは「クリック」をゴールにしていることで満足していることがありますが、そもそもクリックがゴールだった時代は2003年に終わりを迎えています。

クリックを超えたその先の実際的な成果をゴールと定義し、そのゴールに向かって成果を出すことが「運用」ですから、当然この状況では「広告の運用」はできません。「民間企業だからゴールを決められるんだ」という反論も聞くことがありますが、弊社が運用をする自治体のデジタル広告では「ゴール」を明確に定めて、成果を出しています。つまり「自治体のデジタルマーケティングはゴールを決められない」というのは弊社からすると思考停止の結果のいいわけでしかありませんし、それにより「失われた四半世紀」に繋がっていくわけです。

まあここまではなんとなく「自治体のデジマケって遅れてるよね」という感覚論でも説明ができます。ではなぜこの「失われた四半世紀」がおこってしまったのでしょうか?これも結論から言うのであれば「自治体職員のスキル開発が後手に回ったから」だと言えます。

かなり厳しい説明ですが、日本のあらゆる「組織」の中でその組織の構成員(会社であれば社員)すべてが「ホームページの制作」に携わる組織とはなんでしょうか?例えば日本最大のインターネット企業であるYahoo! Japanであっても「ページを作る」人は極僅かですし、楽天であれAmazonであれ、就業している全社員がCMS(ホームページを作るソフトウェア)を触る可能性はありません。

そしてここまで読んでくださっている自治体職員さんであればおそらくお気づきだと思いますが、「組織の中の全構成員」が「CMSを使ってホームページ制作に携わる」日本における唯一の組織が「地方自治体」または「行政組織」です。仮に今管理職であったとしても、おそらく新人時代にはページを追加する経験があるはずです。つまり自治体職員は「CMSを使ってページを作る」仕事もスキルの一つである、といえるわけです。

自治体CMSの歴史を振り返ると、概ね2000年ごろまでさかのぼることができます。ネットクルー社が自治体向けCMSの原型を開発したのが1999年ですので、その頃が自治体デジタル情報発信の萌芽だったといえるでしょう。そして2005年に総務省により「みんなの公共サイト運用ガイドライン」が策定されました。そのガイドラインに対応する形で、自治体CMS向けの仕様がCMS提供企業により策定され、このガイドラインは2025年の現在でも更新をされ続けています。

ただ、このガイドラインはあくまで「職員がサイトを運用する」ためのガイドラインです。つまり、情報を掲載する「ホームページ」の運用方法についてのガイドラインであり、住民がどのように情報を探しているのか、その情報需要に対してどのようなアプローチをとるべきかについては全く記載されていません。

その証拠に、この「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の本文には「SEO」や「OGP」という、現代のウェブサイト運用で必要な概念についての記載は一切存在しません。つまり「ユーザー(住民)」が「どのようにデジタル情報を探しているか」という観点からのガイドラインにはなっていないのです。

したがって、このガイドラインの則って行政サイトを運用しても、住民にとって情報が届くサイトにはなりません。現代的な「ユーザー視点」になったウェブサイト構築・運用についての記述がないので当たり前です。自分の自治体に住んでいる住民の方が「どのように」情報を収集しており、その情報を収集しているときに「自治体からの情報」を効果的に提示することは、現状の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に則るだけでは達成不可能なのです。

もちろん、自治体職員の皆さんが日々多忙な中で、限られたリソースで情報発信に取り組んでいることは重々承知しています。だからこそ、今こそ「住民に届く情報発信」に本気で取り組むタイミングなのではないでしょうか。

この「ガイドライン」に倣った職員の「スキル定義」が2000年当時のインターネットでとどまっており、2025年現在に必要とされる「Webライティング」や「ソーシャルメディア活用」という観点でのスキル開発がまったくなされていない、そしてそのスキルが置き去りにされたまま、いまだに旧時代的な「情報発信」を行っているのが「地方自治体」のデジタルマーケティング・デジタル情報発信の現状なのです。

この「失われた四半世紀」により、地方自治体・行政職員にとって「デジタルでの情報発信スキル」は「ガイドラインに適用していること」に置き換わってしまい、現実的な「住民による見つけやすさ」からほど遠いものになってしまいました。そしてこの問題が一気に表面化した問題があります。それが「新型コロナウィルス・ワクチン」です。

新型コロナウィルスの観戦情報、ワクチンの接種情報、そして事業保障など、「コロナ禍」ほど「行政の情報発信」が必要とされた時代はなかったでしょう。例えば「セーフティネット保障5号」という保証制度がありますが、新型コロナで事業が傾いた事業者にとって「セーフティネット保障5号」が自身を支えてくれる行政の支援策だと知るすべはありません。なぜなら「行政のサイト」には「セーフティネット保障5号」が「新型コロナウィルスで経営が悪化した事業者への支援」だとはどこにも書いてないからです。総務省のガイドライン的に「セーフティネット保障5号」の情報掲載について何ら問題はありません。

しかしそれは住民にとっては「コロナで経営が苦しい」時の情報入手として、いきなり「セーフティネット保障5号」で検索することは不可能です。なぜなら「セーフティネット保障5号」がコロナで事業が悪化した企業に向けた支援であることをまず知るすべがないからです。つまり「セーフティネット保障5号」の記事が載っていたとしても、「コロナで経営が苦しくなった企業」に対する支援策は「見つけられない」ことになります。

この状況では「発信してない」情報と何ら変わりません。さらに言えば、ソーシャルメディアが普及する中、民間では常識になっている「OGP(Open Graph Protocol)タグ」に至ってはガイドライン上何ら定義もされていません。こんな状況ではソーシャルメディア上に情報を掲載しても住民の目につくことはありませんし、結果としてフェイクニュースの蔓延を防止することなどどだい不可能です。

2021年に地方自治体支援を始めたとき、私はある意味でのカルチャーショックを受けました。デジタルマーケティング業界で「常識」といわれている知識はほぼすべての自治体で知られておらず、私が「時代遅れ」だと捨てていた知識が重宝がられているという現状に直面したからです。

栃木県や宇都宮市、真岡市など、その頃からご一緒されている自治体様では、もちろん100%時代に追いつけているとはまだ言える状況ではありませんが、一部の「時代に追いついた」職員さんを研修や伴走型支援で育成することができました。実際に宇都宮市ではトップページの離脱率が6割低下し、吉野町では観光サイトの平均順位が30位台から10位台前半まで向上し、真岡市では特産品である「いちご」を含む検索結果での表示回数が3倍、移住相談が7倍、ふるさと納税が16倍まで伸びています。

ただ、この「失われた四半世紀」はまだまだ日本のほぼすべての自治体で起こりづつけていますし、このままでは「失われた30年」「失われた50年」になりかねません。もちろん弊社は営利企業ですし、会社として売り上げ・利益を追求している立場ではありますが、この状況がこのまま続くことは日本の未来・地方の未来における大きな問題になるとも思っています。弊社としてはこの仕事を通して、何とか社会を少しでも前に進めていこうと考えております。

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sembear
sembear合同会社の代表・CEO。アドテクノロジー、マーケティングテクノロジーについての精密で正確な理解と、元来の理屈っぽい性分も相まってデジタルマーケティング業界に長年在籍。得意領域はマーケティング戦略設計と戦術実行までをしっかり落とし込むことと、その結果をデータとして明確に補足すること。暇があったら音楽制作に勤しむアドテクおじさん。