自治体デジマケの本質課題:失われた四半世紀 Part3 (組織構造編) – 「進めない」自治体デジマケの現状

失われた25年:組織構造編

目次

前々回のBlogでは自治体のデジタル情報発信・デジタルマーケティングが、おおよそ2000年のころの水準でとどまっている、つまり「この25年間の進化から取り残されている」こと、そして前回のBlogでは地方と都市の情報格差、そして広告運用のノウハウの定着から「自治体デジタル広告」の課題を分析してみました。

そして今回は、その「失われた四半世紀」が自治体のデジタルマーケティング・デジタル情報発信の現場にどのような問題を引き起こしているのかを考えてみましょう。

まず数ある具体的な問題をまとめてしまえば、自治体デジタルマーケティング・情報発信で弊社が「闇」と形容する「受注側と発注側のノウハウ欠如」となります。

前々回例示した「みんなの公共サイト運用ガイドライン」話が分かりやすいと思うのですが、自治体の公式ホームページCMS使用は、原則としてこの「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に則っています。当然そのガイドライン以上の付加価値を備えたCMSもありますが、必ずしもすべてのCMSがそういうわけではありません。

つまり自治体CMSについても、デジタル全盛の現代において「ノウハウが不足しているCMS」が存在することは残念ながら事実です。そして行政側においても、その「ノウハウがない」業者を見抜く力が十分ではないことも残念ながら事実になります。

「みんなの公共サイト運用ガイドライン」は25年前の2000年ではボトムラインとして有効だったかもしれませんが、デジタルで情報があふれかえり、デジタル広告が日本の広告の中で最も多く費用が使わるほどメインストリームになった今、そのガイドラインに「則っているだけ」ではボトムラインにもならないのです。

そしてこの「ノウハウがない業者を見抜くノウハウがない行政」の問題が最も発露するのが「仕様書」と「プロポーザル」です。

まず、自治体がデジタルマーケティングに取り組む際には「仕様書」と「プロポーザル」という段取りが存在します。先にプロポーザルから説明しましょう。

プロポーザルとはいわゆる「企画審査」です。行政が行おうと持っている何かしらの情報発信、デジタルマーケティングについて「どうやるとうまくいくのか」を考えて「提案」する制度だと捉えておいてください。

そして仕様書とはプロポーザルの前に準備する文書です。その内容としては「どんな課題を解決したいのか」「どんなことを提案したいのか?」という、プロポーザルにおいて事業者が提案する上での要件が記述されています。

さて、この「仕様書」ですが、一旦「2000年の常識」で考えてみましょう。

さて、20000年といえばどんな時代だったかというと・・・

  • ・サザンオールスターズの「TSUNAMI」が大ヒット
  • ・i-modeの登場が1999年
  • ・ADSL(ブロードバンド・常時接続)の商用利用が2001年

という時代認識の中で、あなたは「情報発信でインターネット」を積極的に使おう、という「仕様書」を書くでしょうか?

この当時、インターネットは「これから」流行するものと思われていましたが、「その当時最も使われている情報媒体」ではありませんでした。もちろんこの状況で「行政の情報発信」の仕様書で「インターネットをメインでやろう」ということはおそらく書かないでしょう。もしその当時「いや、インターネットを使おう」と思い、そういう仕様書にしたとしたら、きっと「これからは、インターネットの時代だ!」という認識のはずです。しばしば行政で「先進的な取り組み」と形容されるものですね。

したがって「失われた四半世紀」問題によって作られる仕様書はまとめると以下の2パターンに分かれます

  • そもそも「デジタルの情報発信」がメインではない、または全く含まれていない
  • デジタルに取組むだけで「先進的」と表現され「取り組むことが目的化」している

実際に今年の仕様書を見ても、概ね自治体の「デジタル情報発信」「デジタル広報」「デジタルマーケティング」の仕様書のほとんどはこの二つのどちらかに集約されます。

そしてこの仕様書が公開され、次のフェーズに映ります。そう「プロポーザル」です。

さて、仕様書が公開された後は、提案機会である「プロポーザル」のタイミングです。先ほど既述したように「失われた四半世紀」により自治体のデジタルマーケティング・情報発信の仕様書は以下のような特徴になることがほとんどです。

  • ・そもそも「デジタルの情報発信」がメインではない、または全く含まれていない
  • ・デジタルに取組むだけで「先進的」と表現され「取り組むことが目的化」している

この仕様書に対して「善良な」事業者が提案することは「デジタルはメインストリームだ」「社会はすでにデジタルシフトしている」「手段を目的化してはいけない」という、おおよそ弊社とお付き合いのあるデジタル広告代理店の皆さんなら呼吸をするほど「当たり前」のことを提案してくるでしょう。

しかし、その「当たり前」の提案はほぼ100%通りません。というのは自治体のプロポーザルは「仕様書通り」の提案を評価するものであり「仕様書を超えた提案」を受け入れられる仕組みになっていないからです。

もう少しかみ砕いて説明しましょう。そもそも「デジタルをやることを想定していない仕様書」の中でデジタルの提案をしたとしても、仕様書を公開した自治体の中では「ポスター」や「イベント」などのオフライン施策がすでに意識の中に存在していたり、または既に根回しが終わってオフライン施策をやることを前提にしていることがあります。そもそもが25年前の常識で考えているので「デジタル」の提案をされてもその重要性・重大さを理解することが不可能なのです。

そして「先端的事例」として「デジタルに取組むことを目的」とした仕様書の場合「まっとうな提案」は「複雑」にしか聞こえません。これは弊社も実際にあったことですが、とあるプロポーザルに審査員として参加しているとき「まともな提案」をしていた業者の説明が「わかりづらい」と一刀両断されそうなことがありました。つまり「ちゃんとした提案」の中身を理解する前に「拒絶」する反応がおこるのです。

さらに悪いことに、この現状は別の側面の問題をはらんでいます。というのはデジタルに明るい現場職員がデジタルマーケティングに取り組もうと努力しても、審査をするのは「デジタルを知らない」幹部層になってしまう、という問題です。もちろんすべての自治体の全ての幹部層がそういうわけではありません。ただ、あくまで相対的に、自治体のプロポーザルで「審査」をする人々は、年齢的に2000年の常識以前の認識の人々が多くなり、そうなると余計に「提案の中身」を理解することが困難になるわけです。

今回で三部目となる「失われた四半世紀」シリーズですが、私の主観が含まれているとしても、概ね現場で起こっていることを構造的に説明できる理屈になっているとも思います。さて、ここからがこのシリーズの本題です。

社会のデジタルシフト「完了」しているにもかかわらず、行政は「失われた四半世紀」でとどまっている、この問題は「克服」しなければならないわけです。高々情報発信の問題だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら子育て支援、ひとり親世帯への支援、介護情報、避難情報など、行政の情報発信は住民一人一人の「生命と財産」に密接にかかわっています。つまり、この「失われた四半世紀」を放置することは、人々の「生命と財産」を危険にさらす、ということなのです。

長くなりましたので第三部はここで終了しますが、次回の第四部でこの「失われた四半世紀」を克服する具体的な取り組みを弊社事例からご紹介させていただきます。

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sembear
sembear合同会社の代表・CEO。アドテクノロジー、マーケティングテクノロジーについての精密で正確な理解と、元来の理屈っぽい性分も相まってデジタルマーケティング業界に長年在籍。得意領域はマーケティング戦略設計と戦術実行までをしっかり落とし込むことと、その結果をデータとして明確に補足すること。暇があったら音楽制作に勤しむアドテクおじさん。