自治体デジマケの本質課題:失われた四半世紀 Part4(対策・克服編) – 失われた25年を取り戻すには?

失われた25年:対策・克服編

目次

さて、今回の第四部で、この「失われた四半世紀」シリーズは最終回となります。改めてこの「失われた四半世紀」シリーズの過去三回を振り返っておきましょう。

まず第一部は「みんなの公共サイト運用ガイドライン」が現在のデジタルマーケティング・デジタル情報発信において、必要とされる要素が網羅されていないこと。それにより地方自治体職員の「情報発信スキル」がデジタル情報発信において「25年前の水準」になっていることを分析しています。

第二部では、この25年間でデジタル広告やデジタルデバイスがどれだけ進化し、一般化し、社会のデジタルシフトが「完了」したにもかかわらず、行政のデジタル広告活用が25年前の常識・水準にとらわれていること。それによる「税金の無駄遣い」がどのように発生するかを考察しました。

第三部では、地方自治体のデジタルマーケティング・デジタル情報発信における「失われた四半世紀」が具体的にどのような問題を地方自治体にもたらしているか、そしてその問題が「組織」としていかに根深いものかを解説しています。

そして今回の第四部では、「失われた四半世紀」をどのように克服したか・克服しようとしているのかについて、弊社と一緒に取り組んだ自治体様の事例を紹介しながら考えてみたいと思います。

今までの3回でも解説していますが、改めてこの「失われた四半世紀」により発生する具体的な「被害」を考えてみましょう。

  • ・自治体公式ホームページに子育て支援の情報を掲載しえても見つけてもらえず、子育てに苦労する世帯が増える
  • ・自治体公式ホームページに避難情報・ハザードマップを掲載しても見つけてもらえず、災害時に困る世帯が増える
  • ・移住推進のためのウェブサイトを作り、デジタル広告を実施してもアクセスが増えず、移住者も増えず、税金の無駄になってしまう
  • ・ソーシャル上であふれかえるフェイクニュースが住民に先んじて伝わり、行政としての正しい情報がいきわたらない

弊社は元来、広告代理店さんやメディア企業などに向けて「デジタルマーケティングのプロ」を育成する事業を行っていましたし、今でも行っています。そして上記にある「被害」は我々のような「プロ」の目から見れば、「しかたがない」ことではなく「改善できる」ものでしかありません。

つまりこれらの「被害」は極論をすれば「行政側の努力不足が引き起こした問題」といえるものではありますが、同時に「行政側の努力」で克服できる問題である、ということも言えます。

もちろん弊社も営利企業ですし、コンサルティングや研修を提供させていただくには、それ相応の対価を求めなければなりません。そして予算が限られている行政において、その予算がなかなか出せないことも十分理解をしています。しかしながら、予算がなくても行政として「失われた25年」に対する対策としてできることが一つだけあります。それが「プロポーザルの審査員でデジタルマーケティングの専門家を招へいする」ということです。

自治体のデジタル情報発信・デジタルマーケティングでは「仕様書」と「プロポーザル」が行われることが多いはずです。本来「効果のある事業」にするためのステップであるはずです。しかし第三部で書いた通り、ほとんどの地方自治体において「仕様書」と「プロポーザル」は構造的に「劣悪な事業」に向かうような力学が作用しています。

弊社もしばしば審査員、またはオブザーバーという立ち位置でプロポーザルに参加します。この「オブザーバー」という立ち位置はあまり聞きなれないかもしれませんが「提案された内容を解説」する役割だと思っていてください。つまり「わかりやすいけど効果の出ない提案」と「わかりにくいけど効果のある提案」を解説すると捉えていただいてもいいでしょう。

ホームページリニューアルやデジタル広告の実施など、「インターネット」で情報発信をする事業において、現状の行政では「正しい判断」ができるだけの知識・スキルはありません。だからこそ各事業者の提案を自治体職員の皆さんが理解できるように「翻訳」する必要があるわけです。

もっとストレートに言いましょう。「俺たちが理解できない提案をしてきた、だからこの事業者はよくない」という判断は「自らが学ぶ意思を放棄した無責任な大人」の態度でしかないのです。「25年前」のわかりやすいインターネット・デジタルマーケティングの時代はすでに終わっています。「25年前の常識」が通用しないこと、そしてその結果「被害」が発生することを理解しておきましょう。

そしてこの「審査員」または「オブザーバー」での支援は、弊社の場合交通費程度はいただきますが、基本的にはそこまでお金をいただくことはありません。弊社以外でもこういった「外部審査員」などでそこまで大きな請求をされた事例を見たことはありません。ぜひまず、目の前の「止血」のためにも外部審査員・オブザーバーの招へいを強く推奨します。

プロポーザルに外部審査員・オブザーバーを招へいすることは、目の前の「止血」としては有効ですが、病巣の根本解消ではありません。そしてこの「失われた25年」を根本的に解消するには「職員の意識・知識」の両面からの変革が必要です。

まず、一旦足元の業務を考えてみましょう。自治体職員の業務は非常に幅広く、そして「異動」が存在することにより専門性よりは汎用的な業務スキルが求められます。

この「汎用的な業務」を因数分解してみましょう。

  • ・議会対応
  • ・施策の立案
  • ・予算の獲得
  • ・住民への周知・告知

このような業務は「どんな部署でどんな仕事をしても」原則としてはついて回ります。土木や医療などの一部の専門的な職種を除く、行政での業務において、これらは「汎用的」なスキルということができるはずです。

そしてもうお分かりだと思いますが「住民への周知・告知」、つまり「情報発信」スキルは自治体職員にとって「必須」のスキルなのです。

デジタルが普及する1990年台やそれ以前の「行政の情報発信」は例えば掲示板や広報誌、チラシ、回覧板など「紙」をベースにしたものがほとんどでした。一部ではコミュニティラジオの設立や地元テレビ局へのスポンサードなどでの情報発信もあったでしょうが、それらを含めて、デジタル以前の行政の情報発信は「一方通行のマスメディア型」だったといってよいはずです。

弊社でも自治体さんでの研修でよく話しますが、情報発信には2系統存在します。情報発信側が押し出して届ける「プッシュ型」と、情報受信者が自らの意思で情報を探す「プル型」です。

上記の図でもわかる通り、プッシュ型とプル型は相互に情報発信を補完しあいます。しかし行政の情報発信では、これまでの歴史上「プル型」の存在を軽視、または無視してきました。結果としてホームページが「プル型」の受け皿になるような設計ができていないばかりか、プッシュ型の施策についても「プル型」を誘因する効果がない「ただ出しただけ」の情報発信になってしまいます。

少し切り口を変えましょう。1990年台までの自治体の情報発信は「紙」をベースにした「プッシュ型」しか存在していませんでした。つまりその頃の行政職員に求められる情報発信スキルは「印刷業者」に外注をすることで埋め合わせができていました。しかしデジタル全盛の2025年では上記のように「プッシュ型」と「プル型」の両面での情報発信が必要で、特に「プル型」については行政の公式ホームページにおけるページ作成、つまり「外注できない」領域の仕事になってしまったわけです。

つまり「失われた25年問題」を解消するには

  • ・行政職員の「汎用スキル」には情報発信スキルが含まれる
  • ・その情報発信スキルは紙やプッシュ型だけではなく「デジタル」時代を前提とする

まず上記の「意識」変革が必要になるのです。

そして最後の壁は「知識」です。ここで一つ、とある事件をご紹介しましょう。2021年、佐賀県伊万里市の公式ホームページがGoogleのインデックスから削除されてしまった問題です。

https://www.zaikei.co.jp/article/20210902/637014.html

この事件において佐賀県伊万里市の担当者は

  • 「他の検索サイトから表示できるので、大きな影響はないと考えている」
https://www.zaikei.co.jp/article/20210902/637014.html

と回答しています。

これこそが「意識」と「知識」が欠落した「失われた四半世紀」を象徴するコメントだと言わざるを得ません。このコメントは

  • ・自治体公式ホームページにどのように住民がアクセスするのか
  • ・現在のデジタル市場におけるGoogle検索の重要性の高さ
  • ・インデックスされるために必要な「業務」の存在の軽視

という「現在のデジタル情報発信」に必要な意識、知識が欠落しているからこそ出てくるコメントでしかありません。

話を「スキル」に戻しましょう。行政職員のスキル開発として最も有効なものが「研修」であることは間違いありません。しかしその「研修」は「CMSの使い方」や「画像の作り方」ではなく、「住民がどのように情報を探すのか?」を理解する、つまりマーケティング流の言葉遣いでいえば「顧客理解」を進める力を鍛える研修でなければなりません。

住民向け情報発信以外の観光や移住、ふるさと納税でも同様です。マスメディア的な「一方通行」のプッシュ型の情報発信は、少なくとも現在のデジタルマーケティングにおいて「それだけ」で十分だという識者は一人もいません。情報取得が多様化する中で、限りある予算の中で適切に「プッシュ」と「プル」をバランスさせるためには「顧客像」を解像度高くとらえるスキルが求められます。

つまり、行政のデジタル情報発信とは、それ自体がマーケティングに他ならないのです。

しかし、この「顧客像を解像度高くとらえるスキル」は座学だけでは身につきません。どんな仕事でもそうだと思いますが、学んだことを実践し、自らの血肉にする努力が必要不可欠です。そういったこともあり、弊社では「研修」だけでなく「伴走型支援」を通した「実践」の支援も提供をしています。

以上を踏まえて弊社と一緒に取り組んだ自治体様の事例を見てみましょう。

1. 山形県米沢市(他多数自治体)

山形県米沢市様では、全職員向けに「ワークショップ」型研修を通して、実際に試公式ホームページの改善をするという研修を行っています。実際に市民の皆さんが使ってる検索語を想定し、その言葉の「意図」を考えてページを制作するのはいわゆるWebライティングでは当たり前の話ですが、そのノウハウを行政の実務まで落とし込むことが狙いです。山形県米沢市ではまだ現在進行中ですが、本研修を導入した他自治体様ではGoogle検索でのクリック率が3倍から5倍まで伸長し、それだけ多くの市民の方に情報が伝わったといってよいでしょう。

2. 栃木県

栃木県ではこちらの事例にもある通り、職員自らがGTMを管理し、タグ設置からイベント設計まで行うよう支援をしています。これは広告のみならず通常の情報発信も含めた「デジタルマーケティング」の計測の内製化といってもよいでしょう。現代のでデジタル広告・デジタルマーケティングでは「計測」のデータを活用した「自動最適化」の活用が非常に重要ですが、そもそも「計測」を行うのは「自分たちが保有する」ホームページになります。計測の内製化を実現することで、より緻密なタグ発火や、それに伴う追加費用の削減を実現し、より「現代で通用する」デジタルマーケティングの実装が可能になっています。

3. 愛知県半田市(他多数自治体)

愛知県半田市様では弊社が提供するダッシュボード、TapClicksを導入し、半田市の情報発信の効果を可視化、そこからPDCAを回し改善する業務がすでに動いています。Google検索でのクリック率やソーシャルメディアでの拡散状況をモニタリングし、データに基づいた改善をすることは、現代のデジタルマーケティングでは「当たり前」のことではありますが、その業務は住民の方に情報を届けるうえでは必要不可欠です。

このように「失われた四半世紀」を取り戻すための「行政職員の努力」は決して夢想でも不可能なことでもなく、適切な支援さえあれば十分に可能であり、そしてしっかりと実績を残せるものであることがお分かりいただけたかと思います。

というわけで、全四回にわたった「失われた四半世紀」問題の考察ですが、かなり厳しい言葉も交えた解説となりました。不快に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、最後にもう一つだけ考えてほしいことがあります。それは「地方の衰退」という言葉です。

現在の日本は人口減少フェーズに入っています。特に地方から都会に出る若者が多い現象、いわゆる「社会減」は、持続的に地方が発展していくうえで死活問題となっています。

ここで考えてみましょう「25年前の常識でふるまっている行政」がある街を、若者は魅力的だと思うでしょうか?「25年前の常識」で出している情報が、今現在「デジタルネイティブ」な若者に届くでしょうか?そしてそんな街の「未来」を若者は信じられるでしょうか?

先ほどの「自治体の情報発信=マーケティングである」という言葉は、もう一つの意味があります。それは「マーケティング」とは「将来への投資」であるということです。現在デジタルマーケティングは数多あるマーケティング手法・情報発信手法の中で「主流」になっています。その「主流」を無視して行った投資活動が実を結ぶことは、相当の幸運がなければあり得ないわけです。つまりこの「失われた四半世紀」問題は「地方の衰退」の一因にもなりえますし、感覚的には一因であるはずです。

その一方で、前段で紹介した自治体職員の皆さんは、現代的なデジタルマーケティング・デジタル情報発信の必要なスキルを身に着け、そして実践しています。これは、地方に住んでいる若者からしてみれば、普段の生活の中で触れる様々な行政情報を通して「うちの街、やってんじゃん!」と感じられるチャンスがそれだけ多い、ということにほかなりません。つまり地方の住む若者が、その町での「未来」を信じられるようになるためには、行政の情報発信の時流に即したアップデートが必要で、そしてそれは職員の努力次第で実現できるのです。

これ以上地方の衰退を進めないために、そしてあなたの街の若者があなたの街での「未来」を信じられるように、ここで「意識」と「知識」をアップデートしていきませんか?もちろんそれは簡単なことではありませんが、まだ今なら取り組む時間的猶予はあります。

「失われた四半世紀」が「失われた半世紀」になる前に、一度現状を見直すところから始めてみませんか?

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sembear
sembear合同会社の代表・CEO。アドテクノロジー、マーケティングテクノロジーについての精密で正確な理解と、元来の理屈っぽい性分も相まってデジタルマーケティング業界に長年在籍。得意領域はマーケティング戦略設計と戦術実行までをしっかり落とし込むことと、その結果をデータとして明確に補足すること。暇があったら音楽制作に勤しむアドテクおじさん。