
目次
1. 広告代理店の「提案力」を考察する
そもそも弊社の広告代理店様向けOne on One研修は弊社の代表が外資系デジタル広告企業で働いている中で「副業」として始めたもので、会社設立以前から様々な代理店さんに対して提供をしてきたものです。ですので会社の設立は2020年ではあるものの、このOne on One研修の歴史は実は10年以上になり、受講された方は100人を優に超えて、その多くがデジタルマーケティングの第一線で活躍しています。
そもそもこのOne on One研修って広告代理店さんがクライアントさんに提出した本物の提案書や報告書をベースに研修を進めているのですが、その中で「課題設定」や「数値分析」など提案に必要な「技能」のチェックに加えて、最終的にはロールプレイングで実際に提案をするところまで落とし込むことで「プレゼンテーション能力」まで網羅をしています。
そういった研修の観点から広告代理店の「提案力」をちょっと考えてみましょう。
2. 全ての提案は「妥当」でなければならない
当たり前の話ではあるのですが、あらゆる「提案」は「課題」に対して妥当でなければなりません。しかしながら、媒体のバリエーションが多いだけでなく、媒体の設定も非常に豊富なデジタル広告の場合、課題を解決するための「妥当」な提案をすることは、字面ほど簡単なわけではありません。
「課題」に対して「妥当」な提案を実行する前提として、まず「課題」が正確に把握できていなければなりません。ただこれは「クライアントから言われたことをやればいい」ということでもありません。というのも、クライアントから言われている「課題」が本質的な「課題」ではないこともしばしば存在するからです。
すごくわかりやすい例を挙げるのであれば、現象として「申込数が少ない」という状況だった時に、クライアントが「申込数が少ないのは会社の知名度がないからだ」という認識、つまり「課題」が「知名度がない」と思っていることはあまり珍しい話ではありません。しかしこれは現実的には知名度の問題ではなくサイトのデザインかもしれませんし、配信設計によるものかもしれません。
クライアントを疑うわけではないものの、誤った課題設定では適切な提案にはつながりません。上記のような認識について、まずクライアントおよびクライアントの業界・競合・顧客の特性などを網羅的に理解する、つまり「クライアントを徹底的に研究する」ことがまず必要ですし、その上で広告配信の知識、媒体特性、クリエイティブの定性・定量的な分析など多くの知識を総動員して適切な「課題」を設定して、クライアントに説明することがまず必要なステップなんですね。
「リスティング広告が云々」や「Meta広告が云々」というのは「最終的な選択肢」として出てくるものであって、いきなりその「手段」の話になってはいけないわけです。本質的な課題がリスティング広告の管理画面の中にあると確約されているならまだしも、そうでないことの方がむしろ多い現状においては、広告配信以前の環境面・現状についての適切な理解が「妥当」な提案のためには必要であるといえるでしょう。
3. 「妥当」な提案のために必要なスキル
あまりすべてを詳らかに説明してしまうと非常に重厚長大な説明になってしまうのですが、弊社としてこの「妥当」な提案をするために必要なスキルとしては以下を上げています。
3-1 クライアント理解力
これは言わずもがな、クライアントおよびその周辺を理解する力です。競合調査や顧客分析を含めた3C分析の能力といってもよいかもしれません。顧客が競合企業に対してどのような優位点・劣位点があるのかを把握することが適切な課題の発見が可能になります。
3-2 課題抽出能力
ある問題が発生してるときに、その原因になっている「課題」は一つではありません。まれに一つであることも否定はしませんが、多くの場合で問題が発生する要因としての課題は複数あることがほとんどでしょう。上記の例でいえば「知名度がない」ことは「申し込みが少ない」要因になっていることはありうるでしょうが、それだけが「課題」ではないはずです。その課題をできるだけ網羅的に発見できなければ、解決の「打ち手」である「提案」の妥当性は担保されないわけです。
3-3 数値分析能力
上記の課題群はあくまで定性的な課題であることがほとんどです。それこそ「知名度がない」というのは非常に定性的ですし「CVRが低い」というのも一種の主観になりかねません。だからこそ、その定性的・言語的な「課題」を「数値」として設定する、いわゆるKPIの設定能力が求められます。デジタル広告は数値で計測が可能です。したがって「課題」を「数値」として設定する「KPI」の設定能力があることで、PDCAを基にしたスムーズな改善が可能になるわけです。
3-4 仮説構築力
そして最後は「仮説構築」の力です。課題が明確であっても、それを「どのようにすれば」解決できるかを見つけ出す力といってもよいでしょう。実際のところ非常に簡単な仮説で済むこともあれば、かなり考え抜いた仮説であることも時として必要になります。
弊社の研修では上記の項目をさらに小分類し、細やかにスキルチェックを行っているのですが、これらの技能を完ぺきに身につけるのはかなり難易度が高く、研修をする側も日々勉強が必要だなと常に思っています。
4. その上で「技術」の理解
それらの提案能力を下支えするのが「技術」領域の知識です。ことにITPに代表されるCookie規制により、旧来の知識を基にした「課題抽出」や「仮説構築」そして「数値理解」はもはや通用しなくなっています。
一番わかりやすいのがいわゆるUB(ユニークブラウザ)数でしょう。ITPにより1st party cookieの有効期限が非常に短くなっているApple端末においては、常に新しいCookieが発番されるため、相対的に「ユーザー数」が増える傾向にあります。つまりそもそも「Apple端末を使ってるユーザーが多い」というレポートはあくまで数値上の話であり、本質的な議論ではないんですね。
上記の例は非常にわかりやすく、恐らく業界的にも常識ではあるものの、どうしても技術的な話になると知識のキャッチアップが遅れることは代理店において珍しい現象ではないことは皆さんご理解いただけると思いますし、それがあらゆる「提案」の「妥当性」を崩しかねないこともご理解いただけるかと思います。
5. 「いい提案」をするために
というわけで今回のBlogの締めになりますが、実は「いい提案」をするためにもう一つ大切な要素があります。それは「クライアント側の姿勢」です。
もちろん代理店側はクライアントに対して「提案」をする以上、顧客ではあるわけです。
ただ上記にあるような技術のトレンドやデジタル広告における最適化の設定などを踏まえると、クライアント側の積極的な協力なしに現在のデジタル広告での成功はほぼ望めません。
というのも「課題」について「妥当」な提案を突き詰めた結果、クライアント側のサイト修正が必要であったり、ブランドとしての見せ方そもそもが問題であったり、ということは当然起こりうるわけです。広告代理店や我々のような「外部」からの努力で改善できることには当然限界がありますし、昨今の技術トレンドでいえば「外部」から改善できることはもちろん多くあるものの「内部」の努力が必要な領域が増えていることも間違いなく事実です。つまり「発注してるんだから何とかして欲しい」という姿勢ではなく「自分たちも変えるべきところは変えていく」という姿勢を持たない限りはデジタルマーケティングにおける成功を手にすることが難しい、ということは理解をしておきたいところです。
弊社は広告主側のマーケティング戦略を立案する側であると同時に、代理店さん側の人材も育成しているわけですが、ぜひ両社が「Give and Take」だけの関係ではなく、上記のような強力なパートナーシップをもってデジタルマーケティングに臨めるといいなあ、と常々思っております。