デジタルマーケティングに必要な「具体」を決める力

デジタルマーケティングに必要な「具体」を決める力

デジタルマーケティングの「戦略」と「戦術」については過去から様々語られてきました。弊社としても過去何回か当Blogに書いていますが、先日のアドテック東京のとある出来事を踏まえてもう少し現代的な解釈をしてみたいと思います。

もしお時間があるのであれば是非以下の記事もご覧ください。

Cookie規制イメージ

こちらの記事で私は以下のように書いています。

そういう観点で言えば1st party dataを活用した計測やセグメント作成、具体的なソリューションで言えばCAPIやDCRなどは当然重要性を増しますし、それ以前に顧客データを蓄積するためのデータ基盤(CDP)を整えることも必要でしょう。やぱりCookie利用制限が進展する中では1st party dataは必要不可欠です。

https://sembear.biz/sembear-journal/2023/10/23/cookie-restriction-back-to-the-basic/

こちらの投稿で明言してはいないのですが、これはあくまで「戦術」の話です。Cookieの利用制限、という業界の潮流がある中で実際に実施する「具体」の話になります。もちろん本当の「具体」はもっと詳細でテクニカルな話も含みますが、総論として上記の話は「戦術」の話です。

さて、このBlogをお読みの事業会社様、自治体様、広告代理店様の皆さん、ちょっと考えていただきたいのですが、上記にあるような取り組みをしたとして、皆さんは1st party dataを蓄積できるでしょうか?皆さんの顧客(代理店さんにとってはクライアントさんの先の顧客)はメールアドレスや携帯電話番号というPII、年代や性別の属性情報などを含めた自身のデータをシェアしてくれるでしょうか?シェアされたとして、それはマーケティングオートメーションやデジタル広告配信を含むデジタルマーケティングの具体的な実行に対して十分な量を確保できるのでしょうか?

おそらくほとんどの方の答えは「No」のはずです。もっと言えば、現状においての1st party dataの収集、活用の経験値がないまま、いきなり取り組んだとしても結果はさんさんたるものでしょう。

つまりCookieの利用制限は戦術レベルの対応ではなく、その上位レイヤーである「戦略レベル」の対応が必要な事象なんですね。これは生成AIの登場でも似たようなことが言えますし、2003年の検索連動型広告の登場でもそうだったように、この業界の技術革新は「戦略的な対応」で乗り切らなければならないものがある、ということを意味しています。

もちろん上記にあるCookie利用制限のような話はクライアントさんごとに異なる話にはなるかと思いますが、単なる「手段」としてのテクノロジー導入ではおそらく「導入しただけ」という結果になるでしょう。つまりユーザーが自身のデータを提供をしてもよい、と思ってもらえる「ブランドとしての魅力」や「見せ方」場合によっては「どういった顧客をターゲットにするか」まで波及しうる問題です。Owned Media、Earned Mediaの活用も含む、タッチポイントの作り方も変わるでしょう。

あ、ちなみにこちらのパラグラフの見出しは銀河英雄伝説のヤンウェンリーの名言です。

ただ、今回の話は「戦略を大事にしよう」という話だけではありません。今回の主題は「机上の戦略」もっと言うと「具体策を考えられていない戦略」の怖さです。

上記にあるCookie規制の話を再び例にとりましょう。Cookie規制が「戦略上の問題」であると上記に記述した弊社のロジックは「戦略の修正が無ければ戦術が機能しない」という論理構造になります。この論理構造に気づくためには「具体」を知っていなければ不可能なんですね。

ちょっと複雑な文章構造になりますが「従来の戦略のまま1st party dataの収集に取り組む」というロジックにはそもそも誤謬があるわけです。

というのは従来の戦略がどういったものであれ、ここでは媒体のデータやリターゲティングも含めた従来の戦術を活用することを前提としています。この文脈ではユーザーのタッチポイントは特にPaid Media(広告)において「Cookie」という非常に簡便な識別情報で作り出すことが可能でした。ところがCookie規制はそういった従来のタッチポイントがなくなることを意味しています。もちろんTopics APIにより幾分は変わると思いますが、それでもAppleのITPはなくなりませんしね。

さて、Cookieが失われることにより、タッチポイントが減少する中、どのように「1st party data」を収集するタッチポイントをつくりだすんでしょうか?CDPを導入してもタッチポイントが増えるわけじゃありません。

つまりこれは「戦術」のレイヤーでは解決できないとともに、戦略立案上で「戦術」の具体策が無ければ「机上の空論」にしかならない議論なんですね。

まずWhyから考える、とはビジネス書でもしばしばいわれますし、私も基本的にはそう考える人間です。ただ、そのWhyを考える力はどれだけの「How」を知っているかに依存するとも思っています。

具体的な課題、やり方がわかっていない状況でWhyを考えても、その「なぜ」がどの程度の影響があり、どういったステークホルダーが関与するべきで、どの程度の工数が必要かがわからない状況では「重要度」を見失うんですね。もっとストレートに言えば「具体」を知っているからこそ「なぜ」をより精密に議論ができる、と言ってもよいでしょう。

アドテック東京でいえば「Cookie規制には1st party dataの活用で対応しよう」という話は 間違いなく正しいんです。ただ、具体に落とし込んで考えると「Cookie規制に対応するために顧客とのコミュニケーションをよりダイレクトにしていこう、そのためには〇〇と△△と××を整えて・・・」という話でとらえるべきで、実はこの〇〇と△△と××という具体を知らないからこそ「1st party dataの活用」というふんわりした内容しか考えることが出来ないわけです。

特に弊社が支援している自治体デジタルマーケティングにおいても、同じ構造の問題はかなり頻繁に起こっています。それは「具体策を考えないまま方針だけ決める」という、ある意味で行政あるあるの現象です。

もちろん「具体策に振り回された方針」であってはいけません。具体策はあくまで「手法」であり、「手法」が目的よりも優先することはあってはいけません。ただ、同時に「手段」が全くイメージされていない「目的」は机上の空論であり、決めた時間と労力がすべて無駄になるだけでなく、その「手段」がないために具体策が迷走します。

さらに「デジタルマーケティング」はこれまで書いてきた通り、Paid Media、Earned Media、Shared Media、Owned Media(いわゆるPESOモデル、ですね)の中にさらに細分化された手法が存在する、つまり手法をできる限り多く理解する必要があるわけです。だからこそデジタルマーケティングの戦略は「机上の空論」にもなりやすいですし、その手法の多さ・複雑さは「戦略なき手段」に陥ることも頻繁に存在します。まさしくそこがデジタルマーケティングの難しさですし、まあ弊社の存在意義であるとも思っているわけです。

「戦略」と「戦術」を相互に行き来し、全体を考えられることがデジタルマーケティングではやはり重要である、ということを改めてお伝えしたいと思うわけです。