広告代理店の「人間関係」についての考察

広告代理店の「人間関係」についての考察

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広告代理店の「付加価値」や「生産性」について、実はその広告代理店内の「人間関係」が大きく影響している、というのは「自説」というにはやや主観的ですし、ややもすると「妄想」の域を出ませんが、ただ体感的にはかなり確信を持っています。

実際のところ、広告代理店の業務はいわゆる「分業制」になっていることが多く、その背景には運用型広告の工数の多さが起因していることもまた間違いありません。そしてその結果、何か問題が発生したときに「他責」にしやすい組織構造になりがちなんですね。

今回は広告代理店の「組織構造」とそれによって起こりうる「人間関係」の課題について考察をしてみたいと思います。

まずは下の図を見てみましょう。

広告代理店の一般的な組織構造

上記の図にもある通り、そして前段で申し上げた通り、一般的なネット広告代理店はおおむね分業化が進んでいます。そして大枠でいえばおそらく「フロント」「コンサル」「オペレーション」という三段構成、またはさらに細分化された組織にもなっているところもあるでしょう。

ここでいう「フロント」「コンサル」「オペレーション」の業務はお互いにオーバーラップする部分はありながらも大枠でいうと以下のような業務構成になっているところがほとんどだと思います。それではそれぞれの職種について考えてみましょう。

フロント(「営業」または「アカウントプランナー」など)

おそらく代理店によって呼び方は様々あるでしょうが、まずはフロント職から説明しましょう。フロント職は原則として「クライアントと相対する職種」であり「クライアントに対して提案をする」業務を担います。一番わかりやすいのが「コンペ」でプレゼンをする担当、というとイメージしやすいでしょうか。

この業務に携わる人は多くの場合広告媒体の管理画面を触ることは稀です。基本的には対クライアントの仕事をしている人、とここでは捉えておきましょう。

コンサル(または「ストラテジスト」など)

次に「コンサル」職です。コンサル職もクライアントと相対するという意味ではフロント職を担っているといえなくもありませんが、もっと媒体の機能に精通し、数値を見て対策を考えることを中心とした職責を担っています。一般的なフロント職がどうしても外回りになり管理画面を見る時間をとることが難しいこともあり、ネット広告の黎明期から「外に行く人」と「中で動く人」という役回りで分化したようにも思います。

この業務に携わる人は広告の管理画面、GAなどを使い数値を見ながら次のうち手を考え、場合によっては管理画面で設定変更などを行うこともあるでしょう。

オペレーション(または「マキシマイザー」など)

最後に「オペレーション」職です。この職種の人は掲載内容の入稿や報告書に使うレポートのダウンロードや定型フォーマットへの落とし込み、予算の進捗確認などを行い、クライアントと相対することはほとんどありません。まれに代理店によっては「客先で説明をするオペレーション担当」という役割もありますが、原則論としてはあまり外に出ることはないかと思います。

この業務にかかわる人は媒体の管理画面もGAも徹底的に使い倒しつつ、エクセルの達人であることも多くあるかと思います。また人によってはSQLなどにも強い人もいるでしょう。

そしてここで考えてほしいのがコミュニケーションの方向、つまり上部の図でいうところの「A」「B」の矢印の向き先です。

まず最初に「A」のパターンから考えてみましょう。この場合多くは「何かやることが決まった」ことの情報伝達になりがちです。

この情報伝達ではしばしば「丸投げ」が起こります。そしてその「丸投げ」が社内コミュニケーションコストを増大させ、生産性の低下や業務ミスの根本原因になることは珍しくありません。このケースでよく発生するのが「自分がよく分かっていないことを丸投げ」することによる「齟齬」です。

上記にある通り、図でいう左側、つまりフロント職になればなるほど一般論として「媒体の機能」の習熟度は低くなります。さらに言えば「タグ」などの計測周りの技術用語についての理解も乏しいことが多く、クライアントから言われたことを理解をしないまま丸投げをしてしまい、コンサル職やオペレーション職的に「何をリクエストしているのかわからない」ということが起こりえるわけです。

一つ例を出してみましょう。クライアントから「効果計測における1st party cookieの活用を進めないといけない」と言われたとしたとき、実は現状では媒体タグもGAも3rd party cookieは使っていないため、そもそもこの質問は意味を成しません。したがってフロントとしてはリクエストを掘り下げ、具体的に何をするべきなのかを洗い出す力が問われます。そうしないと「依頼」する内容が漠然としすぎて無駄なコミュニケーションが起こってしまうんですよね。

もしここで何かしらミスが起こったとしたら、コンサルやオペレーション側からしたら「ちゃんと課題を掘り下げないフロントが悪い」という見え方になりますし、フロント側からすると「言ってることを理解してくれないコンサル(オペレーション)が悪い」という見え方になり、冒頭に書いた「他責」の組織になりがちなわけです。

次にBのパターンを考えてみましょう。このパターンは「実際の改善業務を連絡する」ことが多いでしょう。いわゆる改善提案を作るときのプロセスですね。この情報伝達では「情報が細かすぎることによる誤解」が起こりがちです。

みなさんご存じの通り運用型広告やデジタルマーケティングの成功においては非常に細かな設定や調整が必要です。いわゆる「神は細部に宿る」ではないのですが、その細やかな設定一つで広告施策の成否が大きく変わります。

一つ例を出せば「CV計測」が最もわかりやすいでしょう。タグの設置一つで媒体の最適化の動きは大きく変わります。たかだかGTMでのタグ設置、されどその「たかだか」な業務一つでクライアントへの「付加価値」もっとストレートに言えば「代理店としての存在意義」が問われる事態になりかねないわけです。つまりこの「情報の細かさ」をしっかり伝えられるコミュニケーションが提案を成功させ、クライアントへの付加価値を大きくするうえで不可欠であることが分かります。

そしてここでよくあるトラブルが「情報の粒度が細かすぎる」ことで「何を言ってるかわからない」という現象です。そうなるとクライアント的には「なぜこの提案が有効なのか」を理解することができず「付加価値」である提案が通らなくなります。こうなるとフロント側からしたら「細かすぎて要領を得ない説明をするコンサルが悪い」となりますし、コンサル(オペレーション)側からすると「言ってることを理解しないフロント側が悪い」となってしまうわけです。

上記にある通り、広告代理店の組織構造は非常に「他責」にしやすく、それぞれの視点にそれぞれの言い分があることから「他責」が「文化」として定着しやすい構造になっています。

この「他責文化」が定着してしまうと、部門間の相互理解が進まず「付加価値」の創出が難しくなり、事業の改善ができないまま「ルール」だけ増えてミスを減らすというアプローチにしかなりません。そうなると当然離職率も上がりますし、企業としての競争力がそがれていくことは言うまでもありません。

たかだか人間関係といえども、実はこの課題は「広告代理店」というビジネスモデルの根幹にかかわる課題なのです。

それではこの課題に対する対応を進めるにはどうすればいいのでしょうか?

「徹底した言語化」を実現する知識の習得

まず一つ目に必要なのが「丸投げ」への対応です。クライアントの課題を明確にするためには「漠然とした状況を因数分解」する能力が必要です。そしてそのためには「知識の量」が絶対的に必要になります。これはネット広告以外でもそうなのですが「顧客は穴が欲しいのであってドリルが欲しいわけではない」という比喩にもある通り、顧客がどんな穴を必要としているかはDIYが机なのか犬小屋なのかウォールラック七日によって変わるはずです。つまり顧客のビジネスモデルをしっかり理解し、そこから導き出される細分化された課題に対する打ち手を紐づけるための前提になる知識と思考力を身に着けることが必要になるわけです。

「要点」をクリアにする説明能力

細かすぎてわかりにくい説明のほとんどの原因は「要点」を理解できていないためにすべての細やかな情報をすべて同じプライオリティで伝えてしまうことによって起こります。確かに様々な細部の設定はどれも重要なのですが、その中でも「要点」がどこかを認識し、情報を伝えるときにメリハリをもって相手に伝える説明能力を身に着けることで、細かい情報であっても相手の理解を促す説明が可能になります。

「相互理解」を進める取り組み

最後のポイントは当たり前といえば当たり前なのですが、それぞれがそれぞれの仕事をしっかりと理解する「相互理解」の促進です。疑似的でも構わないのでフロントの仕事内容、コンサルの仕事内容、オペレーションの仕事内容をそれぞれの立場から体験し、そして理解をすることで、相手の立場をおもんばかり、尊重しながら議論をすることが可能になります。過度な配慮は必要ありませんが、それでも同じ社内でリスペクトをしながら仕事をすることは大事ですから。

弊社の提供する研修ソリューション

上記のような状況も多々ある中で、弊社としては「マーケティング戦略グループワーク」をご提案することもしばしばあります。弊社のマーケティング戦略グループワークは「フロント+コンサル+オペレーション」を一つのグループとし、仮想の案件でゴール設計からメディアプランニング、そしてアカウント設計から計測設定までを具体的に学ぶ、というカリキュラムで進行をしています。

上記のような組織課題は「座学」だけでは到底解決しません。同じチームとして事業を作るうえでも、やはりディスカッションしながら知識を身に着けることで社内の「共通言語」に構築につながります。さらに言えばそれを実際の業務のプロセスの中で体験することでお互いの仕事への敬意を持つことにもつながります。ご興味のある方は以下のフォームよりぜひお問い合わせを!