抑えておきたい「最初の一歩」三選
目次
「最初の一歩」こそ自治体のマーケティングで「失敗」しないためのポイント
弊社は広告代理店様やデジタルメディア企業様などの「デジタルマーケティングのプロ」向け人材育成を主要事業としている会社ですが、地方自治体様に対してはデジタルマーケティングの「コンサルティング」や各事業に対するデジタルマーケティングの「アドバイザリー」という形で取り組ませていただいております。
そういった業務を通して、地方自治体のデジタルマーケティングの取り組みにおいて「ここからどうやってリカバリーできるのか?」と頭を抱えてしまうことは決して珍しくありません。そして、そのほとんどはデジタルマーケティングに取り組み始めた時、つまり「最初の一歩」を踏み出したときの「詰めの甘さ」に理由があることが多いように思います。
抑えておきたい最初の一歩その1:ドメイン乱立問題
まず抑えておきたい一点目が「ドメイン乱立問題」です。自治体のデジタルマーケティングにおいて「市や県のホームページとは別に新たにウェブサイト(ホームページ)を立ち上げる」ことは決して珍しくありませんし、それ自体は必要なことも多くあるでしょう。ただ「最初の一歩」として考えてほしいことは「独自ドメインをつかうか否か」という点です。
まず先にポイントからお伝えしましょう。この記事をお読みの職員の方々に理解してほしいのは「サイトを作るときに独自ドメインを取る必要は必ずしもない」ということです。
例えば「sembear市」という架空の市を例にとって考えてみましょう。sembear市は市内の人を対象に「健康増進情報」が集約されたウェブサイト(ホームページ)を作ることにしました。
普通に考えればsembear市は「市の公式サイト」をcity.sembear.lg.jpのような「地方自治体専用のドメイン」で運用しているはずです。そして今回の「健康増進情報」を集約したサイトを「kenkozoshin.city.sembear.lg.jp」というサブドメインを使って構築することが可能で、この場合は現状の市公式サイトのCMSでなくとも自由に作成をすることが出来る、と理解をしておいてください。
わかりやすい例が「とちぎの農村めぐり」のサイトです。
とちぎの農村めぐり:https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/tochigi-nouson-meguri/
ご覧いただければわかる通り「グリーンツーリズムをアピールするサイト」でありながら、ドメイン(TLD+1)は栃木県公式サイトのドメインを使っていることがわかります。かつソースを見ればわかりますが、CMSはワードプレスを活用しており、プラグインで機能拡張をしてデジタルマーケティングに必要な機能をウェブサイトに導入することも簡単にできる状況です。
新たにドメインを取得すること自体が悪いわけではありません。しかしながら「住民目線」に立った時、見たこともない新しいドメインでサイトを作るよりも「市の公式サイト」ことが明示的にわかるlg.jpドメインを活用できるメリットは非常に大きいですし、なによりドメインが乱立することで情報が分散し取得する努力を強いることは、コロナウィルスの蔓延などを踏まえた時に市民生活のリスクにすらなりうるわけです。また、無節操にドメインを取得して無節操に近しいサイトを乱立してしまった結果、統合が難しくなったというケースも存在します。
また、ドメインには取得する際に「期限」があります。担当者の部署移動が定常的に発生する行政特有の問題ではありますが「期限切れになったドメイン」がどのように使われているのかがわかっていないケースがあります。とある県ではかつて使っていたであろうドメインが仮想通貨の業者によって現在使われている、ということも発生しています。ドメインの取得一つとってもしっかり考えておきたい、ということですね。
「最初の一歩」ドメイン編!!
- 独自ドメインをとること自体は悪いことではない
- 公式サイトのサブドメインを使ってサイトを作ることが出来る
- 公式サイトのサブドメインを使う場合は公式サイトとは別個のCMSを使うことが出来る
- 独自ドメインをとるなら、将来的に管理をすることや先々のサイト統合なども見据えておきましょう
抑えておきたい最初の一歩その2:計測の不備問題
さて、これは自治体限定の問題なのかは怪しいところではありますが、特にウェブサイト(ホームページ)の計測での不備が多いことは事実です。
これはいわゆるGoogle Analyticsの設定の話ですが大きく分けて二種類存在します。
Google Analyticsタグの重複発火
これは民間でもあるあるなのかもしれませんが、GAタグを二重発火しているサイトは珍しくありません。そしてこの「GAタグ重複発火」は民間企業以上に自治体のデジタルマーケティングにおいては致命傷をもたらします。
というのも、自治体のデジタルマーケティング(情報発信といってもよい)においては「コンバージョン」という「明確なゴール」が存在しないことがほとんどです。基本的には啓発系の情報発信であったり認知や興味関心を醸成するためのマーケティング施策だったりするわけなのですが、そうなるとウェブサイト(ホームページ)に期待する効果としては「ページビュー数」が主要なKPIになることがほとんどなんですね。
GAタグの重複発火はユーザー数やセッション数については影響を与えません、そういう意味で広告からの来訪数とCV数(そしてそこから求められるCVR)が重要である民間においては「大きな問題だけど致命傷ではない」ことが多いかもしれませんが、自治体においては「そもそもどれだけ見られたか」を示すページビュー数が二倍(重複のレベルによっては三倍や四倍にも)になることは施策の成否の判断に直結する、つまり「致命傷」になりうる問題なんですね。
共有ドメインでの計測
これも結構あるあるなんです。サイト構築を受託者側が実施するときに「受託者のドメインでサイトを構築する」というケースが珍しくありません。
となると今度はGoogle AnalyticsのCookieが問題になります。皆さんご存じの通りGoogle AnalyticsのCookieは基本的にTLD+1で稼働をしますので、xxx.sembear.bizでもsembear.bizでも同じCookieで「ユーザー」を見ることになります。となると、新たにサイトを作ったけれど「新規ユーザー」が追えない、という現象が発生します。もっと言えば来訪経路もおかしくなりますし、計測の基準をどこに置くかが迷走する根本原因になるわけです。
これはどちらかというと上に書いた「ドメイン問題」で解決してほしいところではありますが、「共有ドメインでサブドメインを切ってサイトを作る場合」はそれ専用の計測(GAでプロパティ分けるとか)を必ず受託者側に実行してもらう必要があるわけです。
「最初の一歩」計測編!!
- GAタグの重複発火は全く珍しいことではありません。受託者側に何度も確認をお願いしましょう。
- GAタグチェックツールは使えるようになってもよいかもしれません
- 共有ドメインでのサイト構築は避けたほうが良いでしょう
- どうしても共有ドメインでサイトを作る場合には、それ用の計測を準備するよう何度も確認しておきましょう
抑えておきたい最初の一歩その3:小さすぎるスモールスタート
「デジタルマーケティングは手軽にスタートできる」という言葉を私も研修でよく言いますし、それ自体は事実です。そして「まずはスモールスタートで行きましょう」ということもスピード感が重要なデジタル施策では正論であることも否定しません。
ただ「小さすぎるスモールスタート」に陥ると「そこからどうするか」が見えないばかりか、「次の一手」を打つ際にその「小さすぎるスモールスタート」が邪魔になるケースもあることをぜひ理解しておいてください。
上の「sembear市における健康増進情報発信」という事業を例にとりましょう。
一般論から言えば「ウェブサイトは作っただけでは見られません」ある程度集客施策を考えないと、サイト来訪者は増えません。はっきり言えば「誰も見てくれないサイト」が出来上がるだけになってしまいます。
となるとウェブサイトを作るのと同時に広告施策やソーシャル施策、SEOなどの施策も同時並行で考えたいわけですが、こういった「本来必要な施策」を検討することなく「ウェブサイト(ホームページ)を作る」ことだけしか考えられていなかったケースは枚挙にいとまがありません。
ここからが大変なところで、じゃあ集客施策を進めるために「ページを追加する」であったり「OGP/Twitter Cardを設定する」ということをいざやろうとすると「できない」と言われることが本当に多いんですね。となると集客施策について満足に効果を出すことが出来なくなります。
スモールスタートは大切です。上記にある通り「スピード感」は必要ですから。ただ、それは将来の展開や可能性を狭めてはいけないわけです。
本来スモールスタートとは「実証実験」であるべきです。そして「スピード感をもって施策を実施することで将来的な成功につなげていく」ための「スモール」であるはずです。自ら実施範囲を狭めてしまい将来的な成功につなげられない「スモールスタート」になってしまっては本末転倒なわけです。
もちろん予算の関係上すべてが実施できるわけではありません。ですがまず「理想的に全体で必要な施策」をすべて描き出したうえで「スモールスタート」に必要な要素を網羅的に把握すること、そしてその要素の中で「何から始めるか」を選択することで「本当に必要なスモールスタート」を計画する必要があることは是非ご理解をいただきたいところです。
「最初の一歩」スモールスタート編!!
- まず「将来的な成功に必要な要素」まですべて洗い出しましょう
- その上で「今やるべきこと」をリストアップしましょう
- 「とりあえずサイトを作る!」であったり「とりあえず動画やる!」という展開になりがちです
- 手段の目的化は絶対に避けましょう
結論:失敗を恐れちゃダメ
以上、弊社がみてきた「自治体のデジタルマーケティング施策」におけるよくある落とし穴についての解説でしたが、最後に言いたいことが一つあります。
以上のような問題は、実はちょっとした心がけで防ぐことが出来るものです。無論最初のうちは誰だって失敗をするものですし、弊社スタッフも失敗から多くのことを学んでいます。
弊社がアドバイザリーとして助言させていただいている自治体様でも、最初のうちはなかなか苦労をされていましたが、最近いただくご質問はだんだんとレベルが高くなっています。「人材育成」の会社としては微力ながらも職員さんのデジタルマーケティングスキルの向上に寄与できているかな、とうれしく思っています。
上記に書いた問題はおそらく誰もが一度は通る道です。その経験値を広く庁内に展開することが組織としての経験値になりますし、その経験値が蓄積されればデジタルマーケティングの様々な手法を活用し、地方創生や住民生活の向上を推進する力になると弊社は信じています。
デジタルマーケティングやデジタルでの情報発信について、お困りごとや悩んでいることがありましたら是非以下のフォームよりご相談ください。誠心誠意、お答えさせていただきます。