自治体シティプロモーションにおけるテクノロジー活用 / 栃木県真岡市「いちご王国栃木の首都もおか」のマーケティング環境とは?

栃木県真岡市「いちご王国栃木の首都もおか」のマーケティング環境

「いちご王国栃木の首都もおか」宣言から始まる栃木県真岡市のデジタルマーケティング。今回は真岡市のデジタルマーケティングを下支えするテクノロジーについて解説をしていきます!

目次

関係人口拡大とデジタルマーケティング

さて、引き続き「The Insight」シリーズの第二弾です。前回の「マーケティング戦略編」を受けて今回は「マーケティング戦術」編とでもいうべき、具体的に使った広告媒体、テクノロジーについてご紹介&解説をしたいと思います。

関係人口拡大を目指した今回のマーケティング施策、まだ結果の数値は公表できませんが現状で非常に大きな効果を上げています。是非今回の記事をご参考に、皆さんの自治体のシティプロモーションに取り組んでみてください!

今回の取り組みのおさらい

詳しくは前回の「戦略編」を見ていただきたいのですが、今回弊社が取り組んだのは「真岡市における関係人口の拡大」を狙ったデジタルマーケティングです。関係人口については以下の画像を改めてごらんください。

関係人口イメージ
出典元:総務省のWEBサイトより

今回の関係人口拡大を目指したデジタルマーケティングについて、弊社としては基本的な戦略作り、コンセプトプロポーザル、ターゲット設計、そして実際の広告運用からクリエイティブのディレクションまで、ほぼ一気通貫で関わっています。

その中で実はちょっと悩んだ点があります。それは自治体特有の人事異動であったりゴール設計の難しさであったり、という本来のマーケティング施策で対峙する悩みとははちょっと異質なものではありました。そしてその結果として、今回のデジタルマーケティング施策について、おそらく市町レベルの自治体のシティプロモーションとしてはちょっと珍しく、少し凝った「デジタルマーケティング環境」を構築することにしました。

真岡市におけるデジタルマーケティング環境(MarTech Stack)

まずちょっと専門用語の解説です。今回弊社は「真岡市の関係人口を拡大するためのMarTech Stack(マーテック・スタック)」を構築しています。MarTech Stack(マーテック・スタック)とは正直皆さん耳なじみのない言葉だと思いますので、まずそもそものMarTech Stack(マーテック・スタック)とは何かをご説明します。

MarTech Stackとは”Marketing Technology Stack”とも言われます。その名の通り「マーケティングテクノロジーを積み上げたもの」といってよいでしょう。

デジタルマーケティングにおいては様々なツールが登場します。代表的なところでいえばGoogle Analyticsは皆さんご存じかと思いますが、他にも有料無料含め他にも様々なツールがあります。こういった様々なツールをつなげて(積み上げて)、マーケティング全体の効果改善を目的に活用する環境をMarTech Stackと言います。まず今回の真岡市関係人口拡大施策で構築したMarTech Stackは以下のような模式図になります。

真岡市・関係人口拡大施策デジタルマーケティング環境

タグ管理:Google Tag Manager

左から説明をすると、今回のマーケティング施策におけるタグの管理はすべてGTM(Google Tag Manager)で実装しています。タグの設置だけでなくGAのイベント設定もすべてGTMで一元管理です。まあ弊社の研修を受けていただいている代理店の方にとってはごく普通の話だと思いますし、何ら珍しいものではありません。

ソーシャルメディア管理:Sprout Social

そしてここからが「関係人口拡大を目指す自治体のマーケティング」を踏まえた構成に入ります。

まず真岡市の「関係人口」を拡大する中で「真岡市」についての投稿がソーシャルメディア上でどのように推移しているかを見つつ、かつ投稿のタグ付けなども含めてSocial Mediaの一元管理ツールである「Sprout Social」を導入しています。これで主にInstagramへの投稿を管理しています。

各広告媒体・ソーシャルアカウント

次にメディアですが、今回はオウンドメディア(特産品紹介サイト)をランディングページに、Google、Yahoo! Japan、そしてInstagramという広告施策、さらに広告ではないソーシャルメディアとしてやはりInstagramのアカウントを運用しています。

広告施策については戦略で明示された「いちご」で押し切る作戦です。となるとここで必要になるのは「いちご好きな層」を確実に抑えられるリスティング広告。そして「真岡のいちご」を映えさせるInstagram広告をファーストチョイスとして選定しました。

もちろんCVポイントでタグ発火、各媒体の最適化を機能させるためにもGTMでの管理は必須です。そして広告ではありませんが、Instagramは普通に運用をしています。やっぱり「いちご王国栃木の首都もおか」ですし、いちごってめっちゃ「映え」るんですよね。そういう意味でもInstagramアカウントは必要ですし、やっぱり「#いちご好きな人とつながりたい」ですからね。

計測ツール:Google Analytics

そして弊社の得意分野である「計測・分析環境」について。

まずやっぱり広告効果の計測や特産品紹介サイトの計測はGAで行っています。イベント設定やタグ管理はすべてGTMで実装しているのは上に書いた通りです。これもまあ何ら特別なことはやっていません。せいぜい「ちゃんと数字をモニタしました」ぐらいな話です。

ヒートマップ分析:Lucky Orange

さらにウェブサイトの分析としてこれまた弊社が提供しているLuckyOrangeというヒートマップツールを導入しています。これについてはこの後導入の背景含めて詳しくご説明しましょう。

統合分析:TapClicks

そして広告の表示回数、消化金額などの数字や広告ではないInstagramのフォロワー数、エンゲージメント数なども含めて弊社の統合分析ツールTapClicksにデータを集約しています。これでいろいろ実施したGAの数字、広告の数字、Instagramアカウントの数字を一か所に集約でき、分析稼働を大幅に削減して迅速な意思決定を可能にしています。TapClicksにはふるさと納税の納税額データもファイル連携で取り込み、現状の寄付金額も半自動でモニタリングをしています。

さて、偉そうに書きましたが、実際のところ普通の広告施策の普通の取り組みとも言えなくもありません。っていうか民間企業ではごくごく普通ですし、新たにBlog記事にするほど大した話ではありません。

しかしながら「自治体のシティプロモーション」という観点から見ると、今回のMarTech Stackには割と明確な意図があります。改めて「自治体ならではのデジタルマーケティング」という観点から今回のMarTech Stackを解説しましょう。

今回のMarTech Stackのテーマ「自治体ならではのデジタルマーケティング」

さて、それでは今回のMarTech Stackの細かいところやこだわりをご紹介しましょう。まず今回のテーマは小見出しにもある通り「自治体ならではのデジタルマーケティング」です。

このMarTech Stackのどこが「自治体ならでは」なのかを解説しましょう。

弊社チーム×真岡市チームの生産性を最大化したかった

実は今回って、意外に登場するメディアが多いんです。ウェブサイトが一つ、広告が三媒体、そしてソーシャルアカウントが二つ。普通にこれらをエクセルで報告していたんでは弊社としてもリソースがかかりすぎますし、真岡市の職員さんも「報告会で数字を始めて見る」となるので「数字を見ながらディスカッションをする」ことがなかなかできません。これってPDCAを回すときの結構大きな足かせになっちゃうんですよね。

もっと言えば民間企業の広告担当の方であれば常日頃から管理画面やGAを見る時間はとれるでしょうが、自治体の職員さんは必ずしもデジタルマーケティングだけをやっているわけではありません。となると「週一の会議が始まる前には数値についての共有が確実に終わる」環境を作っておくことは、実はすごく大事なことなんですね。

さらに言うと真岡市の皆さんは自治体DXアワードを受賞するほどデジタル推進に積極的ではありますし、実際に打ち合わせでも皆さんPCを持参されているのですが、残念ながらすべての行政組織で常にPCを使った打ち合わせができるわけではないのが現実です。

そういう意味でもエクセルでレポートを作ってメールで送信、それをそれぞれのPCで開く、というのは自治体のデジタルマーケティングについてはかなり無理がある環境です。だからこそ初めからAPIを使ってそれぞれのデータ元から自動的に数字を抽出し、あらかじめ決めたKPIを追いかけられるダッシュボードにほぼリアルタイムで更新ができる環境が必要だったのです。

今回結構いろんな指標を追いかけていますが、おそらく真岡市シティプロモーション係の皆さんとのディスカッションでは一回もエクセルのレポートは出てきていません。

異動があっても取り組みを引き継げる仕組みにしたかった

GTMでイベント設定やタグ管理を実装してデジタルマーケティングを進めたのは「それが普通だから」というのはもちろん事実ではあるのですが、実はそれだけが理由ではありません。

自治体の職員さんは民間企業よりも「異動」がより頻繁に起こります。となると、今取り組んでいる方が来年度には異動をすることがありうるわけです。そうなるとシステムで管理をしないと「前任の担当者」しかわからないような設定になることがどうしても起こります。これはTapClicksも同様ですが、クラウド上で分析結果を確認できることで「誰かのパソコンがなくなったら数字がわからない」ということを避けることが出来ます。

今回の取り組みでは「GTMのようなクラウドベースのタグ管理」を真岡市役所自らが導入することによって「少なくとも環境の引継ぎだけはすぐにできる」ということを実現する、という観点もありました。また、自治体のデジタルマーケティング施策は多くのケースでプロポーザルが実施されます。したがって受託者が将来変わる可能性もあるわけで、そういった際にもGTMでもって設定した内容を引き継げることも大きなメリットです。

民間企業ではごく普通の考え方ですが、自治体においてはGTMを導入しているケースは実はあまり多くありません。このGTMの導入によりタグの管理もイベントの設定もすべて市役所の職員さん側で実装が出来るようになっている、というのも今回のこだわりポイントの一つです。

誰が担当になっても直感的に考えられる環境にしたかった

デジタルマーケティングの経験者はただでさえ少ないのが日本の現状です。いわんや地方自治体の職員さんではおそらくほとんどの方が実務経験はないでしょう。

つまり今回のようなケースでもし人事異動が発令されたとすると、なかなかノウハウの蓄積が難しいことが想定されるのです。はっきり言うとGAやTapClicksで数値を見て考えることがどうしてもハードルが高くなる方が出てくる可能性があります。

そこで導入したのがLucky Orangeです。これはいわゆるヒートマップツールですが、今回の真岡市の関係人口拡大施策においてはMVP級の活躍だったように思います。Google Analyticsは非常に優秀な計測ツールではありますが、当然使えるようになるまでの習熟期間がかかります。その点Lucky Orangeであれば非常に簡単にヒートマップを確認でき、現状の課題の把握・仮説の構築について直感的に考えることが可能です。

LuckyOrangeのヒートマップは裏側でGAのイベントとも連携し、イベントを発生させたユーザーに限定したヒートマップを表示したりUTMパラメータとも連携して特定のメディアから来訪したユーザーのヒートマップを表示する、ということも可能です。

これにより「ユーザーの行動」を数値ではなく直感的・感覚的に可視化をすることが出来、さらに数値でその直感や感覚を論理付けする、という取り組みが出来たかな、とみております。

この環境、お高くありません

そしてなにより、今回のこのMarTech Stackは実はそんなに金額的に高くないのです。お値段は公開できませんが、はっきり言えば格安に近いレベルです。

むしろ広告運用であったりクリエイティブの製作などにはその分予算を割いています。このようにテクノロジーを使いつつ、人が考えるところにはしっかりお金を使って成果を出す、という今回の取り組みは「テクノロジーによって人間の創造性をフル活用する」という弊社のモットーである「Humanity & Technology」を身をもって実証できたかな、とちょっと誇らしく思っています。

さらには広告について言えば当然自動最適化を活用しています。その観点から言えばTapClicksとLuckyOrangeのおかげで、どこをコンバージョンに最適化を学習させるか、という点においても人間がより仮説を立てて考えられるようになっていたことも個人的には非常に満足している点です。実際今回は初期設計だけで十分に効果が出ましたが、次回以降の広告施策で今回得られたデータを基にまたブラッシュアップすることが出来るはずです。

デジタルマーケティングの戦略立案から現場での実行、そしてその実行を支える環境構築まで、お悩みの方はぜひ一度ご相談くださいませ!

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