広告代理店の営業(フロント)職に求めたい「ディレクション」の力

広告代理店の営業に求めたいディレクション能力

目次

近年増加する「営業職」への研修依頼

弊社は広告代理店に在籍しているデジタル広告のコンサルタントなど「デジタルマーケティング」のプロ人材育成が主要事業なのですが、特に昨年からデジタル広告代理店だけではなく総合系の広告代理店の、特に営業職に向けた研修・人材育成の依頼が増えてきました。厳密には昨年からちらほら会ったご依頼が、今年になって急激に増えてきた印象です。おそらくコロナ禍も終わり、広告代理店としてクライアント企業と対面での打ち合わせが増えてきたことが背景としてはあるかと思います。

ただ、こういったご依頼の増加以前から、弊社が研修を提供している広告代理店さんとの会話では、広告代理店の営業(フロント)職のデジタル広告への対応力向上、特に「ディレクション力」の向上は急務である、という認識をすでに持っていたことも事実です。今回のBlogではこれからの広告代理店の「営業(フロント)職」において、どのようなスキルが必要で、どのようにそのスキルを身に着けるべきかについて考察をしたいと思います。

フロント職に「ディレクション力」が必要になってきた背景

まずは背景から考えてみたいと思います。弊社の考えではありますが、広告代理店のフロント職において「ディレクション力」、つまり社内の運用担当者やタグ設置担当、社外のパートナー企業に対して指示を出す司令塔機能が求められるようになったのは複数の要因が存在すると考えています。

理由その1:Apple ITPによる計測環境の整備

最も大きな引き金は2017年から始まったApple社のプライバシー保護規制、ITPのリリースだったように思います。

ITPのリリースはそれまで各社個別だったタグの設置などについて、結果としては各社類似した計測設定が求められるようになりました。そしてITPの進化に伴う1st party data活用という流れの中、Googleであれば拡張コンバージョン、Meta(facebook)であればConversion API(CAPI)と言われるような「クライアント側の協力なしには実装が困難」な計測が求められるようになりました。

つまりクライアントと相対する担当者が、一定の技術知識を持ったうえで、実装担当者とコミュニケーションをとる必要が出てきたわけです。これがタグの全ページ設置、というような単純な技術実装であればそんなに苦労はしないのですが、1st party dataを活用した計測となると、クライアント企業が保有しているデータの理解、そしてプライバシーポリシーや改正個人情報保護、マッチキーの定義やそもそものCVポイントの定義など、各所との調整による実装が必要になります。したがってまずこの領域でのディレクション力が広告代理店には必要になったわけです。

理由その2:各媒体の自動最適化の進化

そして各媒体による「自動最適化の進化」も要因の一つでしょう。上にある「ITPの影響」であればいわゆる営業職ではなく「コンサル職」のディレクション力と捉えてもよいのですが、媒体の最適化機能はより「営業(フロント)職」のディレクション力が求められるようになった要因です。

皆さんご存じの通り、各媒体の機械学習による最適化はもはや運用型広告においては必須の活用機能となっています。そしてこれは「機械学習」による最適化であり、つまりは「学習期間」を必要とします。言い換えれば「どれだけ早く最適化に十分な学習をさせられるか」が運用で差をつける一つのスキルになっており、これは今までのような「掲載開始後にチューニング」というものではなく「掲載前のアカウント設計」が最も重要なポイントになるわけです。

通常広告代理店は多少の差異はあれども営業職→コンサル職→オペレーション職という三段階の構成になっていることがほとんどです。この中で「掲載前」からクライアント企業とコミュニケーションをとるのはもちろん営業(フロント)職になります。

したがって営業(フロント)職はクライアントのマーケティング戦略、ゴールやKPIをしっかり把握し、その中で課題を解決するためのCVポイントの設計であったりキャンペーン構成であったりという「掲載前の初期設計」についての理解と、その指示を出すことが求められるようになったわけです。

理由その3:媒体そのものの多様化+媒体利用の多様化

最後の理由は単純に「媒体の数が増えた」ことと「それぞれの媒体の活用シーンが増えた」ことが挙げられます。運用型広告がダイレクトレスポンス以外でも使われるようになった、と言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。

2010年ごろまでは業界の雰囲気として「運用型広告=ダイレクトレスポンス」という認識があったように思います。しかしもはやYoutubeの動画広告やfacebook広告の多種多様なフォーマットを見ても明らかなように、認知領域においても主流は運用型広告です。というよりももはやインターネット広告はほぼすべて運用型広告になっており、いわゆる「予約型」の広告はほぼ市場的には見られなくなっています。

つまり「運用」を担うコンサル職やオペレーション職はそれぞれの媒体の機能拡充や媒体そのものの増加によりどうしても各媒体への専門性が高まり、全体を俯瞰して戦略・戦術を担うロールを担うには業務過多になる傾向があるわけです。弊社の研修でも特にOne on One研修では、今まで運用を担っていた方々をその知識を無駄にすることなく、クライアントと相対するフロント職として育成するケースが多くなっています。

こういった理由から、そもそもクライアントのデジタルマーケティングにおける「司令塔」の役割が「フロント」側に求められるようになった、と考えるのは決して無理な仮説ではないと思います。

課題:しゃべらないフロントがもたらす生産性の低下

そしてこの現象に対応ができないと「打ち合わせでフロント職が何もしゃべらない」現象が起こります。

非常に口の悪い書き方ですが、実際に弊社とお付き合いのある代理店さんでも同様の発言がありますのでご容赦ください。これはディレクション能力が欠如した営業(フロント)職は「自分では何も話せない」という状況になってしまい、結果として毎月の定例会で案件に携わるほぼすべての担当者が出席する現象が起こるわけです。そしてその定例会ではそれぞれの担当者がほんの数分話すためだけに1時間を超える打ち合わせに出席し、フロント職は最初のアイスブレイクと最後の挨拶だけで終わる、ということが起こってしまいます。

当Blogをお読みの方は既にお気づきかと思いますが、広告代理店という業種は決して粗利が大きいわけではありません。特に運用型広告は最終的には運用者の人的リソースが経営資源になるわけで、そういったリソースがクライアントへの説明会への出席のために食いつぶされる現象は実は経営課題に直結します。

打ち合わせがリモートで実施されていたうちは、自分の出番が終わればこっそりと他の仕事もできたでしょうが、対面での打ち合わせとなるとそうもいきません。つまりコロナ禍が明けたことで「しゃべらないフロント」の存在によるリソースの圧迫がよりシビアな課題として浮き彫りになった、と考えられるわけです。

結論:司令塔を育成しよう!

弊社が研修を提供している広告代理店さんはどちらかというとデジタルバリバリ、運用力バリバリ、という会社さんが多く、結果として営業(フロント)のディレクション力も相応に高い傾向がありました。

そんな中、昨年弊社はとある総合広告代理店さんにて、フロント→コンサル→オペレーションという組織体制も含めた運用力向上のコンサルを行いました。こちらの代理店さんはどちらかというとオフラインメディアを中心に扱っていたのですが、コロナをきっかけにデジタル代理店へのシフトをトップダウンで進めており、その中で弊社にご依頼があった会社様となります。

弊社がまず取り掛かったのは「司令塔」の育成を目指したOne on One研修です。これは半ば社印アセスメントの意味もありました。そしてその中でも特に評価が高いメンバーを選抜し、彼らを中心として業務の棚卸と分類、そしてそれぞれのタスクへと落とし込みました。結果として、もう1年が経過するのですが、非常に良い状況になっていると先日お話をいただきました。

こちらの広告代理店さんも当時は「しゃべらないフロント」という状況ではありましたが、徐々にその場を適切に仕切り、そして提案能力も比例して向上をした結果、コンペの勝率が上がりつつも、社内の生産性で大幅な向上がみられ、利益率も改善しつつあります。

複雑化する現代のデジタルマーケティングでは何よりも適切な差配ができる「司令塔」が最重要となっています。そしてそれはおそらく現状の市場の動静を見る限り「営業(フロント)」が担うことが主流となるでしょうし、その結果は対クライアントだけではなく社内の業務全般にも影響を与える、ということがお分かりいただけたかと思います。

もし上記のような課題でお悩みでしたら、是非以下のフォームよりご相談くださいませ!