地方自治体のデジタルマーケティングを阻む「縦割り」の壁

地方自治体のデジマケを阻む縦割り問題

目次

自治体のデジタルマーケティングにおける「縦割り」とは?

さて、しばしばいわれる「行政の縦割り問題」ですが、弊社が取り組んでいる自治体のデジタルマーケティング支援も、決して無縁の話ではありません。

まず今回の「縦割り問題」についてご説明しましょう。自治体のマーケティングにおける「縦割り問題」とは「移住も観光もふるさと納税もすべてバラバラに動いていて自治体としての打ち出しに統一感がなく、その上利用するメディアや稼働人員がそれぞれの施策で分散することで、効果を上げることが出来ない」という問題です。

おそらく皆さんも〇〇市の公式Instagramアカウント、〇〇市の移住情報発信Instagramアカウントなど一つの自治体が複数の様々なアカウントを持っている状況を目にしたことがあるかと思います。無論十分な予算がある都道府県レイヤー、または一部政令指定都市のマーケティングではそういったこともあるかと思いますし、それ自体を否定はしません。しかしながら人口が50万人を下回る一般的な市町村レベルになってしまうと、この「縦割り問題」は途端に深刻な問題をもたらします。

今回の結論として先に書いてしまうと「縦割り問題は地方自治体のデジタルマーケティングにおける最大かつ最悪の落とし穴」になる、ということです。

「縦割り」の弊害

もう少し具体的な話に入りましょう

弊社がデジタルマーケティングを支援している自治体さんにおいて、やはり行政的な「縦割り」はかなり壁になります。マーケティングという営みがそもそも「横串」で動くことを前提とすることが多いわけなので、民間企業のマーケティング支援においても、以下に各部署を横断して方針を固められるか、というのは弊社に限らず「マーケティングのコンサルティング」を営んでいる企業においては最初の壁になるでしょう。

そういう意味で「縦割り問題」自体はよくある話ではあります。特に地方自治体の場合デジタルマーケティングを実施しているのは各事業課であることが多く、他部署として何をやっているかが把握できていない、また自治体全体のマーケティング方針がないまま動くため「町のPRポイント」がそれぞれの部署の価値観によって定義される現象が起こります。つまりどれだけPRをしても「どんな街かよくわからない」という印象を残しかねないのです。

さらに言えば、先日発表されたふるさと納税のルール改正は、上のように「町のPRポイント」を定めきれない自治体にとっては大きな問題となります。

以下のスライドは2023年の5月に実施したウェビナーの資料抜粋なのですが

関係人口を拡大する「ふるさと納税」

上記を見てお分かりの通り「自治体」として選ばれる理由が存在しない場合、「返礼品のコスパ」で自分の市町村をPRするほかありません。結論から言えば「自治体なんか関係ないけどグラム当たりの値段が一番お得なところでふるさと納税をする」人を惹きつける方法しかなくなるわけです。そして総務省が発表した新しいルールでは、こういったふるさと納税のマーケティングは基本的にNGとなっています。

ふるさと納税以外でもこの問題は起こっています。例えばとあるA市では「移住」と「ワーケーション」と「観光」がそれぞれ「移住政策課」「産業振興課」「観光振興課」という異なる部署で動いてる、というケースを想定してみましょう。この時A市で町のマーケティング方針がない場合、移住では「都心から意外に近く便利な地方都市」をPR、ワーケーションでは「海が見えるコワーキングスペースで働ける」ことをPR、そして観光では「温泉とグルメ」をPRしていたとしましょう。

ここまで書けばもうお分かりかと思いますが、このように「部署をまたがってPRポイントが大きくずれる」ことは「町自体の認知」を向上させる上では逆効果になります。しばしばマーケティングの世界で言われますが「なんでもある」は「なんにもない」と同じ、という話になるんですね。

いちご王国栃木の首都、真岡市の結果

そういう意味で、2022年度に弊社がデジタルマーケティング支援をさせて頂いた、栃木県真岡市のデジタルマーケティングが昨年度ふるさと納税寄付額4倍を実現したのは偶然でも何でもありません。しかも当時から動いていたサイトリニューアルなども無事終わり、いちご関連の検索で市の公式ホームページ閲覧が大きく伸長し、今年度に至っては移住相談が爆発的に増加するという非常に高い効果を上げています。

これはもちろん弊社の力ももちろんあったとは思います。しかしながら、何より職員の皆さんが「真岡市のマーケティング方針」を明確に立案し、その結果として「いちご王国栃木の首都、もおか」というキャッチコピーが生まれ、そして市長である石坂さんがトップとしてしっかり公式のステイトメントを出してくれた、つまり「真岡市一丸となって取り組んだ」ことが何よりも大きな成功の要因だったのではないかと思います。

真岡市は決して人工的にも財政規模的にも大きな町ではありません。ただ昨年からしっかりと「マーケティング」に取り組んだ自治体です。弊社としては真岡市のデジタルマーケティングにおいて、戦略の立案から戦術の実行、そして職員向け研修などほぼ全方位的に取り組ませていただきましたが、それらはすべて「真岡市一丸」という状況を作り上げた「シティプロモーション」の取り組みがあってこそだったと思っています。

結論:シティプロモーションは自治体の未来を作る

つまり冒頭の「縦割り問題」を打破するには「シティプロモーション」が中核となった「マーケティング戦略」を作り上げる、というのが、今まで弊社がみてきた「地方自治体デジタルマーケティング」における一つの答えです。

自治体によってはシティプロモーションは「イベント係」という位置づけであったりすることもあるようですが、現実的に「移住」「観光」「ふるさと納税」など各課にまたがる事業を横串で支援できる部署は、現在の地方自治体の組織においては「シティプロモーション」に落ち着くというのはご理解いただけるかと思います。

実際には様々な困難が伴う「縦割り問題」の解消ですが、これを打破できなければおそらく今後、ふるさと納税寄付額を向上させる取り組みは難しいはずですし、移住であれ観光であれ効果は頭打ちになるでしょう。それはつまり「人口減」という課題において緩和策も打開策も存在しない、という状況になりかねません。

もちろん様々な見解がある問題かとは思いますが、弊社としては「地方自治体のデジタルマーケティング縦割り問題」は「シティプロモーション」という軸で解決することが可能で、そしてそれは「地方自治体の未来を作る」仕事だと考えている次第です。