Google Chromeの3rd party cookie規制延期に対する考察

目次

皆さんもご存じの通り、GoogleによるChromeの3rd party cookie規制が延期となりました。本来2024年12月に適用開始予定だった3rd party cookieの規制は2025年の1月以降、実際にはどのタイミングになるか明確ではありませんが、少なくとも2024年内でなくなったのは確定となります。

Googleからの公式発表は現在のところこちらのページだけですが、近々開催されるGoogle I/O、その翌週に開催されるProgrammatic I/Oにて何かしらの続報や詳細が発表されることかと思います。

実際に上記のページを見ても、延期になったということ以上の情報はありませんし、補足情報としても各所との調整を続けていることがわかり、いずれかのタイミングで3rd party cookieが規制されるのだろう、というところで現状においては理解をすることでよいと思われます。

私も過去様々なウェビナーや勉強会、広告代理店さん向けの研修でお話をさせていただいているのですが、3rd party cookieの規制について、その本質を改めて解説しておきましょう。

皆さんもご存じの通り、3rd praty cookieの規制は「ユーザーのプライバシー」を守るため、という社会的な流れと無関係ではありません。まず前提をしっかり考えてみましょう。

「広告媒体によって追跡され、自分の趣味嗜好にあった広告が配信される」というのは必ずしも悪ではありません。ユーザーの快適なインターネット利用を踏まえれば、無関係な広告よりも自分の趣味嗜好に合致するほうがストレスは少ないでしょうし、インターネットサービス提供側からすれば広告からの収益拡大により低コストでサービスを提供できることはユーザーにとっても利益にかなうことです。

そういう背景もあり、インターネット広告は拡大を続けていく中で様々なターゲティング手法を生み出し、そしてエコシステムを拡大していきました。そのプロセスの中でDSPやSSP、3rd party DMPなど様々なプレイヤーが存在し、エコシステムの拡大を加速していったわけです。そして、その急激なエコシステム・市場の拡大の中核にあった基礎技術こそ「Cookie」という「ユーザーのブラウザを識別するID」でした。

だからこそ、今回のGoogle Chromeの3rd party cookie規制は非常に難易度が高いわけですし、延期が繰り返される理由も非常によくわかります。たかだかCookieの規制、と言ってしまえば簡単かもしれませんが、Cookieを規制する、というのはインターネット広告、ひいてはデジタルマーケティング全体に非常に大きな影響があり、会社によっては存続の危機に直面する可能性のある、非常に大きな事件なのですね。

プライバシー保護のためのAdChoices

ただ、そういった急拡大の中であっても「プライバシー」についての課題は常に存在していました。だからこそインターネット業界はAdChoicesという自主規制(というべきか本当に悩むんですけどね)を2010年から提供をしています。

AdChoicesとは、乱暴に言ってしまえば「ユーザーが広告をオプトアウト(表示させない)」設定にできるオプションです。2010年の段階で、欧米においてはすでに一部のターゲティング広告は「Sneakey(こそこそしている」という言葉で問題視されていました。

インターネット広告というエコシステムは広告媒体やプラットフォーマーだけでは成立しません。そこには広告主も広告代理店も、そして実際にインターネットを利用するユーザーも必要不可欠です。

その中で、ユーザー自身が「追跡されない権利」を発揮する機会がAdChoicesというオプションでしたし、当時の私はこれで業界の自浄作用が多少は進むかな、と期待をしていた部分も少なくありませんでした。

ところが、AdChoicesは現在でも存在こそするものの、そこまで浸透していません。というのも残念ながらAdChoicesでは完全にオプトアウトできるものではなく、はっきり言ってしまえば非常に中途半端なオプトアウト手法になってしまっていたからです。

AdChoices以降もインターネット広告の技術革新、エコシステム拡大は続いていきます。ちなみにAppleのITPは2017年から提供開始されていますが、実はITP以前からiPhoneでは一部の3rd party cookieが利用できません。

「追跡されないオプション」から「追跡を許可してもらうオプション」へ

上記のような背景から言えることは、インターネット広告、そして運用型広告の拡大と成長は「ユーザーの追跡されない権利を軽んずる」ことで実現できた、という理屈が少なからず存在する、ということだと考えています。もちろん上記のAdChoicesなり様々な努力がされていなかった、というつもりもありませんし、その拡大自体が悪いこと、だとも思いません。もっと言えば「ユーザーの追跡されない権利を軽んずることで成長してきた」というのは極論ですし暴論だとも思います。ただ、その観点を否定できるかというとなかなか難しい、というのが大方の理解ではないでしょうか。

そんな中、法律的な観点ではGDPRなりCCPAなりが成立し、そして技術的にはAppleのITP(Intelligent Tracking Prevention)やFirefoxのETP(Enhanced Tracking Protection)などがリリースされることになりました。

これらの法律的・技術的変化は「プライバシーに対する視点の変化」ととらえることが可能です。つまり今までは「ユーザーにとっての追跡されない権利」つまりあくまで「追跡されることが前提であり、いやな場合は追跡を拒否するオプションの提供」だったのに対して、GDPR・CCPA、そしてITPは「ユーザーは追跡されないことが前提であり、広告側が追跡したい場合にはユーザーの許諾を得るべき」という考え方に変わっているのです。

その中でなぜ3rd party cookieが規制されるのか、という議論を考えてみましょう。実はこの議論、これだけでちょっとミスリードで、規制されているのは3rd party cookieというよりは「ウェブサイトをまたいでユーザーの行動を追跡しうるCookie」であり、それが原則技術的に「3rd party cookie」である、と解釈する必要があります。

「ウェブサイトをまたいでユーザーの行動を追跡しうるCookie」について、わかりやすい例を出しましょう。それが昨年の九月にAppleがリリースしたLTP(LinkTrackingProtection)です。

実は現在の広告媒体(Google、Meta、Yahoo! Japanなどなど)はそれぞれの媒体の効果計測においてxxclidというクリックIDを付与し、ランディングページのJavaScriptによってクリックIDを読み取り、クライアントのドメインの1st party cookieとして付与する、というプロセスを採用しています。これは技術的には3rd party cookieは一切出てきません。このプロセスにおいては1st party cookieでの計測実装のみが存在します。

ただ、これで「CVが計測できる」というのは事実上「クライアントのサイトと広告媒体をまたいだユーザーの行動の追跡」ということも可能です。したがってこういった計測についての対策としてAppleは昨年上記のLTPをリリースし、特定条件下における1st party cookieの発行も規制しているわけです。

と、ここまでが今回の「Google Chromeの3rd party cookie規制延期」を考えるための必要な事前情報となります。

今回のGoogle Chromeの3rd party cookie延期についていえば、まあ仕方ないだろう、というのが私の私見です。上記にある通り、Cookieはインターネット広告の根幹を支える基礎技術であり、その基礎技術が使えなくなる、というのは影響を与える企業、組織の数が多すぎますし、そういった意味から安易な規制というよりは、しっかりと準備を整える必要があることは間違いありません。

ただ、今回の発表を「好意的」に受け止めているメディアなどがあったことは、いささかどうかとも思います。今回のGoogle Chromeの3rd party cookie規制は、今までの歴史的に言えば「広告業界の無節操な拡大」と「ユーザーの権利を軽視」した結果である、という側面が否定できません。AdChoices自体が有名無実化してしまったことも含めて、今回のGoogle Chromeのプライバシー保護機能の提供(3rd party cookieの規制とはあえて言わない)の延期を「好意的」に受け止めることはどうなんだろうか、と思う次第です。

そして、実は先日たまたま偶然発見したのですが、とある媒体のとある機能が2024年現在においてもFingerprintingを利用しているような挙動をしていました。もうこういう「Sneaky」な技術活用はやめにしたほうがいいと思うんですね。これだけ「ユーザーが追跡を拒否する」権利が重視されている現在において、事実上オプトアウトができない追跡技術であるFingerprintingを採用すること自体が神経を疑います。

というわけでCookie規制の歴史などを振り返りながらこの問題を見てみると、最終的には「倫理観」の問題に帰結するといってよいでしょう。Cookieという基礎技術の話ではあるものの、実はこの問題は我々デジタルマーケティング・インターネット広告業界に携わる、一人一人の倫理観・Integrityが問われる問題なんですね。

実際に数年前のウェビナー「Cookie利用制限のその先」においても同様のことを話していましたが、先述のFingerprintingの話なども踏まえれば、やはりこの「Integrity」はかなり根深い問題であるように思います。

1:01:17あたりからご覧ください!

また、手前味噌で恐縮ですが、弊社のBlogで触れているApple CEOのTim Cookの発言も改めて振り返ってみると、現在の課題についてより理解が深められるように思います。

改めて、Google、およびアドテク各社の皆さんには万全の準備を経て、ぜひ3rd party cookie規制を成功させてほしいですし、市場の健全な成長に寄与していただけることを、弊社としては切に希望しておりますし、応援させていただきます!

というわけで、今年も5月に開催されるProgrammatic I/Oに行ってまいります!Cookie利用制限の最先端の現場だけではなく生成AIの活用、その他ソリューションについてアメリカの最先端事例を余すところなく吸収して持ち帰ってまいります!

夏以降、Programmatic I/Oで得た最新情報・各社のアップデートを踏まえた「アメリカアドテク最新情報レポート」を研修としてご提供いたしますので、ご興味のある方は以下のフォームよりお問い合わせくださいませ!