生成AIはコンサルタントの夢を見るか?

生成AIと広告代理店

目次

生成AIがもたらした衝撃

正直、業界人であればChatGPTを含む、いわゆる「生成AI」が驚愕の進化を遂げていることに対して異論をはさむ人はいないでしょう。生成AI(Generative AI)の登場については、これまた皆さんもご存じの通り規制を検討している国家も出てきているわけですが、ここまでのレベルで社会的な影響を与えたイノベーションという意味では、ひょっとしたらルターの宗教革命やインターネットの登場そのものに比肩するものなのかもしれません。そしてこれは我々デジタルマーケティング業界・ネット広告業界にとっても無縁ではありません。寧ろ我々の業界こそ非常に大きなインパクトがもたらされるものでしょう。

今回のBlogでは「生成AI」がもたらすであろうネット広告業界、運用型広告業界へのインパクトを「デジタルマーケティングの人材育成」という事業を展開している弊社からの視点として考えてみたいと思います。

TapClicksとMicrosoftの生成AI活用例

まず詳細を考える前に、非常に特徴的な二つの例を出しましょう。一つは弊社とタッグを組んでいる米TapClicks社、そしてもう一つは生成AIにおける主役の一つ、Microsoft社の取り組みです。

TapClicksでの取り組み

実は二週間ほど前、弊社が提供しているダッシュボードツールであるTapClicksについて以下のような記事が出ています。

TapClicks First to Introduce AI-Powered Insights and Reporting Capability with ChatGPT Integration

詳細は上記の記事を見ていただければと思いますが、ちょっと詳しく解説をしましょう。

弊社が提供して言えるTapClicksは大きく以下の四つの機能が含まれています。

  1. 広告媒体や計測ツールからAPIでレポートを自動的に取得
  2. ルールに基づいてレポート集約・様々な数値を自動計算
  3. その集約したレポートをダッシュボードで公開
  4. ダッシュボードを自動的に定例資料に変換

見てお分かりの通り、TapClicksを導入することでエクセルでの成形やパワポへの貼り付け作業などがほぼなくなり、広告代理店における「レポーティング業務」を圧縮することが可能です。導入いただいたGMO Nikko様では最大90%の工数削減を実現しています。

先日TapClicks社との打ち合わせの中で、この記事について話をしてみました。おおよそ皆様お気づきかと思いますが、今TapClicks社が開発しているのは「データを基にコメントなどを自動的に生成AIが記述する」という機能です。こうなるとパワポに各コメントですらAIが自動的に記述をします。もちろん開発中ではあるので実際にどこまで実装できるかは不透明ではありますが、ただこの取り組みは非常にスマートであることは間違いありません。

※ちなみにこちらの機能、ベータ前に弊社には提供になる予定ですので興味がある方は是非ご相談ください!

Microsoftの取り組み

TapClicks以外でも同様の動きがあります。様々な会社が取り組んでいるのですべてを取り上げることはやめておきますが、やはりMicrosoftにおけるcopilotの導入は触れておくべきでしょう。

活用している方もいらっしゃると思いますが、Microsoftが提供しているヒートマップツール、Microsoft ClarityにおいてCopilotは既に搭載されています。これはヒートマップでの計測数値を基にCopilotが文章を生成するもので、この段階ですでに「数字でわかることだけをコメント」することは何ら付加価値にならないことがお分かりいただけるでしょう。もっとも生成AIがなくとも「数値でわかることだけ」しか話さない広告代理店やコンサルタントに付加価値があったのか、という議論はもちろんあるわけですが。

つまりこのMicrosoftとTapClicksの例からもわかる通り「数字を見ればわかること」を「今月の分析」とする仕事自体はAIがほぼ置換することはそう遠くない将来、ひょっとすると今年中にも起こる、ということがお分かりいただけるかと思います。

結論:今まで以上にコンサルティング力が問われる時代へ

まず弊社の結論として言えば、今まで以上に「コンサルティング力」が問われるようになることはほぼ確定だと考えています。ここで言うコンサルティング力とは、いわゆる広告の管理画面を用いて運用するノウハウだけではなく、クライアントの事業についての理解力、ビジネスモデルの因数分解、ターゲットとなる市場の理解、競合の定義など、いわゆる「上流工程」と言われるプロセスの理解と、媒体の機械学習に適切に計測データをフィードバックするための知識と、そもそも効果計測における正しい実装を実現する技術理解の両面が含まれます。もう少し掘り下げて考えてみましょう。

マーケティングの上流工程がより必要になる理由

一言で言えば「プロンプト」の実装において、上流工程の理解ができていないとピンボケな生成AIの活用しかできない、ということです。「上流工程の理解」というと「あー、まあそうだよね」と一蹴されそうですが、今までの「理解度」とはおそらく精密さが異なります。というのも、生成AIに正しくアウトプットさせるための「プロンプト」を書くためには、クライアントのビジネスモデル、ターゲット市場、市場の理解などなどを「完全に言語化」するレベルでの理解が求められるからです。

例えば画僧生成AIとして活用が進んでいるMidjourneyを例にとりましょう。Midjourneyの最新版では、ほぼ写真と変わらないクオリティの画像を作ることが可能ですし、実際にバナー広告の製作に活用している方もいらっしゃるでしょう。ただ、ここで出てくる画像が広告画像として機能するかどうかは、その画像を生成するための「プロンプト」に依存します。

クライアントのマーケティングにおける理解が「浅い」状態では「デジタルマーケティングの人材育成のバナーを作って」というプロンプトぐらいしか記述できません。そこに「広告代理店の運用者の技能を底上げできる研修を提供しているデジタルマーケティング人材育成会社のバナーを作って」というより精緻なプロンプトの実装ができるか否かは、間違いなく「マーケティングの上流工程」の理解が必要になります。

つまりは、広くあまねく社会の動きや市場の動きにアンテナを張り、そしてクライアントの事業を粒度細かく理解する能力がなければ生成AIを正しく動かすためのプロンプトを書くことはほぼ不可能です。敢えて語弊がある言い方をすれば「社会に対する感度の高さと教養」が非常に高いレベルで求められる、と言い換えてもよいのかもしれません。

計測における知識が必要になる理由

次に計測面の理解についてです。上に書いたTapClicksの取り組みにある通り「数値でわかること」については勝手にコメントが記述され、TapClicks内で生成されるダッシュボードと定例会資料にコメントが埋め込まれる日はおそらくそこまで遠くありません。

ただ、前提となるのは「その数値が正しい計測がなされているか」というところです。生成AIは計測の実装までをチェックしてくれるわけではありませんし、レポートの数値において技術的なエラーが発生し計測にミスがあった、ということを発見してくれるわけではありません。またも語弊のある言い方ですが「正しいコメント」を書いてもらうプロンプトとして「正しいレポート」が必要なわけです。

したがってまず計測が可能な限り正確に、そして精緻に実装されているかが極めて重要になります。そもそも計測のエラーに気づけないようでは、生成AIがクライアントの役に立たないアウトプットを出してしまう可能性のほうが高いわけですから。

さらに言うと上記にある「マーケティングの上流工程」の理解を基にした、生成AIを上回る知見、意見、見解を出すことも求められるでしょう。

上記を踏まえて考えても「コンサルティング力」の底上げが急務であることは間違いありません

というわけで今年も行ってきます。Programmatic I/O

まあ上に書いたようなことは心ある方であれば皆さんすでに想定しているかと思いますし、何ら目新しい意見ではないとも思います。ただ間違いないのは「生成AI」が今どのような影響を与えつつあり、そして今後どのように扱われていくのかという方向性を確実に把握することが必要だ、ということでしょう。

上記も踏まえ、今年もまたアメリカのアドテクの祭典「Programmatic I/O」に行ってきます。昨年はCookie規制を中心としたIdentity Resolutionが個人的には大きなテーマでしたが、今年はそれに加えて「生成AIの活用」についてアメリカの最新情報、活用事例などを収集するつもりです。

昨年同様「米国アドテク最新レポート」として情報をまとめてご提供いたしますので、興味のある方は是非お問い合わせくださいませ。

そして最後に、今回の記事のタイトルはフィリップ・K・ディックのSF小説の金字塔「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」をモチーフとさせていただいております!